小さいおじさん? 井守(いもり)
井守
『伽婢子』より『守宮の妖』
都市伝説として実しやかに囁かれている「小さいおじさん」をご存知だろうか?
芸能人による目撃談の他にも、実際に新聞記事を賑わせたこともある。
ここで紹介するのは、井守という妖怪。
これは福井県に現れたとされる妖怪なのだが、井守は「小さな人」に化けるのである。
――ある僧が、夜に経文を読み修行していると、ふいに小さなささやき声のようなものが聞こえた。
僧は驚き辺りを見回すと、なんと小さな小人が何かを言っているのだ。
僧は「きっと気のせい」と無視していると、小人は「無視すんじゃねぇ無礼者!」と叫び、仲間を呼んだ。
小人がわらわらと現れ始めたのだから流石に僧も耐えられず逃げ出した。
翌朝、僧が村人にこの話をすると、「この辺りは戦死者が多く、浮かばれない武士の魂が井守となって古井戸に住みついた」と教えてくれた。
僧は、昨晩小人に襲われた場所へ戻ってみると、確かにそばには古井戸があり、そこには沢山の井守がいた。
僧は早速念仏を唱えると、井守達はたちまち死んでしまった。
僧はその井守の亡骸を集めて火葬し、武士達の魂とともに手厚く葬った。
それ以降、井守も小人も現れることはなくなったのだと云う。
――井戸を守るイモリならば、なんだかそんなに小さいおじさんとは関係なさそうに見える。
しかし、この話の元は「守宮」の事であり、すなわちこれはヤモリである。
昔からイモリとヤモリを混同する事はよく起きていたようで、この怪異もまた本来はイモリではなくヤモリの事を指しているのだ。
そう考えると――家を守ってくれているヤモリが小さいおじさんとなって現れる……という流れも少しは無理のないものに思えてくるのだけれど、どうだろう。