妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

轆轤首(ろくろくび)

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『画図百鬼夜行』より「飛頭蛮」

 

非常に有名な首が伸びる怪異・妖怪。

ろくろの由来となっているのは、陶芸の際に用いるろくろ、井戸のろくろ(滑車)等々、いくつかあり定まっていない。

轆轤首の原型と見られるものは「首が伸びる」のではなく、「首が飛ぶ(抜ける)」ものであった。

石燕が「飛頭蛮」と書いてろくろくびと振っているが、これは中国に「飛頭蛮(ひとうばん)」という名の化け物がいて、それ由来の事だと思われる。*ヒトウバンも頭が胴体から離れて浮遊する、という似たような化け物。

因みに原型と前述した「抜け首」は、首の抜けている体を移動させると元に戻れなくなるとも言われている。

やっぱり幽体離脱と関係しているような気が……。

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『百怪図巻』より「ぬけくび」

 

愛する彼女はろくろくび

 

「私――初めてだから」

と、その夜彼女は言った。

その日は一日中、ショッピングや食事で彼女と遊び、とても楽しい一日だった。テスト前の休みをそのように利用していた僕は、当然その後のテストで酷い点を取ることになるのだけれど、そんなのはどうでもいいことだった。

付き合いはじめて三か月。高校に入って初めて出来た可愛い彼女。

僕の両親が友人の結婚式があるからと鹿児島まで遠出している――というこれ以上無いシチュエーション。僕はその日、彼女と一緒に「卒業式」をする気概に満ちていた。

普段見慣れているはずの僕の汚い部屋も、彼女がいるせいで全く別の世界になってしまったかのように見える。彼女がこの部屋にいる――ということは、完全に非日常。日常とは、一人の女性の存在だけで簡単に壊れる、壊すことができるモロイものなんだな、なんて哲学的になってみたりして。

 

コンドームはこっそりとベッドの下に忍ばせてある。軽々しく「とりあえず生で」なんて居酒屋みたいなことはしない。

初体験の心得もネットで散々調べつくした。

痛がるかも知れないから、焦らず冷静に

痛がるかも知れないから、焦らず冷静に

そんなまじないを唱えてた僕に、冒頭の彼女セリフだ。実は彼女がブぁージンである確証なんて無かったのだけれど、ひとまず僕はその日最初のガッツポーズを心の中でした。

 

恐らく彼女も「これから起こること」を感じたのだろう。一瞬、彼女の表情全体が強張ったのを感じた。

彼女の様子がおかしくなったのはその直後から。

彼女はまず、ゆっくりとベッドの上に座った。興奮でも、緊張でも無い様子で。真顔だった。ただ何か……なんというか……神々しかった。

僕はただただ興奮し、よくわからない状態だった。よくわからないが、ベッドに自ら向かってくれた彼女の意にそぐわぬよう、僕もベッドに向かい、彼女の両肩に手を載せた。

「電気は……消してね」

そうなのだ。これは散々学習を繰り返してきたアダルト動画とは違うのだ。煌々と照りつける光の元、彼女の秘部を簡単に直視できるほど、実際は「野暮」な雰囲気ではないのだ。

僕はすぐに彼女の願いに従い、電気を消した。

 

僅かに出来たカーテンの隙間から、月明かりが青白く射し込んでいた。いや、あれは月明かり等ではなく、街灯だったのかも知れない。とにかく、その光は彼女の横顔を照らし、普段から色白の彼女をより一層不思議な白色で闇に浮かび上がらせていた。

僕は彼女の肌よりも真っ白になった頭で、がむしゃらにキスをした。

放課後に教室でしたキス。公園で語らいながらしたキス。今日、ショッピング中に照れながら頬にしたキス。

そのどれとも違う、濃厚なキス。

唇の厚み、触れる鼻と鼻、彼女の吐息、その匂い。

それら全てが濃厚で、白という色しか存在しないその世界は現実離れしていて、それはもう言葉で言い表すには限界がある程の不思議な気持ちで……。

チラと彼女の顔を盗み見た。何かを感じるでもなく、ただ静かに目を瞑っている彼女。身を委ねる――という言葉そのもの。

僕はもう暴走特急だった。セガールおじさんだった。

 

乱暴に、彼女の乳房を揉みしだいた。Tシャツの上からハッキリとわかるブラジャーの感触。その煩わしさ。違う。触りたいのは、コレジャナイ。

手を下へと這わせる。Tシャツの裾から静かに手を入れ、再度乳房へと向かう。

その時、彼女が僅かに身震いしたのを感じた。

その身震いで僕の興奮は限界を突破する。

僕は顔を彼女の胸に埋めた。服の匂い……いつもの、彼女の洗剤の匂い……。

手は、なぜか乳房へ向かうのを止め、彼女のスカートを下へ下へと這っていた。スカートの裾まで到達した手は、一気に太腿を撫でながら陰部へと進む。

熱――。そして湿気。

(ほう、これが原子力にも匹敵する女性の陰部の力ですな)

等とわけのわからないことを考える僕。

手はそのまま静かに陰部に当てられた。湿り気。興奮を通り越し、混乱し始める僕の童貞脳。

手はそのまま静かにパンツの生地上から初めてコンニチワする陰部の感触を楽しむ。

(本当に――無い――ンだな)

とやけにしみじみと感動する僕。その瞬間まで、女性にはち〇こが無いなんてとても信じられなかったのだ。

僕の顔は、たっぷりと彼女の胸の感触を顔面に刻んだ後、淫靡なキスを繰り返しながら再度彼女の口を目指す。

乳房から肩へ登り、Tシャツを少し引っ張り鎖骨辺りにキス。そのまま首へと伝い、静かな優しいキスを首伝いに繰り返す。

チュ……

 

 

チュ……

 

 

ペロリ(アクセント)

 

 

チュ……

 

 

チュ……

 

チュ……

 

チュ……

 

 

ん?

 

チュ……

 

 

チュ……

 

 

チュ……

 

 

え?

 

チュ……

 

チュ……

 

 

長くね?

 

 

チュ……

 

チュ……

 

 

 

 

何かがおかしい。

僕は静かに目を開けた。

そして――蛇のように長く連なる首と、その先で静かに目を閉じる彼女の顔を見た。

 

「なぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

サカリの猫の声のような叫びを僕はあげた。

 

そんな彼女との初夜の記憶。

 

 

――妖怪ろくろ首。

彼女が妖怪だなどとは思わない。しかし、誰かに説明するにはその妖怪の名前を出すのが一番簡単だ。

あの夜、結局僕らは初体験することができなかった。

彼女はその時のことを覚えていないらしい。ただ、「魂が抜けだすような、すごく気持ちのいい感覚だった」とだけいっていた。

僕等はかれこれ今年で付き合って3年目になる。

彼女はいつも「妖怪じみた私と付き合ってくれてありがとう」なんていうのだが、

「首が伸びるぐらいで冷める愛ではないよ」

と、僕はいつも彼女にいう。

彼女のろくろ首現象は、夜にしか起こらず、また三か月に一度あるかないか。故にほとんど支障は無い。

むしろ、実は僕の中では彼女の首が伸びた時は、「オーガズムを超える最高の快楽、そしてシチュエーションを提供できたのだ」と喜ばしいことのシルシにもなっていたりする。

唯一の難点は、コトが終わり、僕がすっかり賢者タイムに入ってしまった際、その長く伸びた首がとかく鬱陶しいこと。夏場なんか暑苦しくて敵わない。どういう仕組みなのかわからないが、首はゆるやかに縮んでいくようなので、大体夏場の夜はスヤスヤと眠る彼女の横で、長い首をアッチコッチにどかしながら眠れぬ夜を過ごすことが多い。

では冬場は平気かというとそうでもなく、寒がりな彼女は首も全て布団の中にしまおうとするので僕の体は高確率で布団の外へ押し出される。当然、寒すぎて眠れない。

彼女の首が伸びる――なんていう現象に遭遇してしまった場合、そんな特殊な感覚を持つ彼女を持ってラッキー、と思うべき。

ただし、恋人の首が伸びた夜は、長く、長く、果てしないことも覚悟しなくてはならない。

 

妖怪ろくろ首の伝承の多くが、寝ている女性に起きる現象であるという事実。

その陰にはきっと僕のような「苦労した男」の様々な想いが込められているような気がしてならない。

 

 

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