古今変わらずウナギも必死――鰻男(うなぎおとこ)
鰻男(うなぎおとこ)
岩手県雫石町に伝わる妖怪鰻男。
日本人は古くから鰻を食してきて、土用の丑の日で有名なように、しっかりと慣習は残っている。
その一方で、あまりにもうなぎを持ち上げ、商売し続けたせいで、ついにニホンウナギまでも絶滅危惧種入りしてしまった。実に世界で獲れる鰻の七割近くが日本人によって消費されているという異常な鰻好き国家日本だが、ニホンウナギ以前にも早々に枯れてしまった鰻の種はいくつかある。
日本人が鰻を食べ過ぎなのである。
しかし鰻もバカじゃない。
岩手県に伝わる伝承に、鰻の根性を見て取ることができる。
――岩手県雫石村に、村でも有名な美人娘がいた。
ある日、その娘の元へ一人の超美男子が現れた。
その美男子は娘と恋仲になり、毎晩娘の家を訪ねてきてはプロレスゴッコに勤しんだ。
ある晩、娘の母が家の軒下から不気味な話し声がするのを聞いた。
「ついに娘に俺達の種子を宿らせることができた」
「お疲れちゃん。でも油断するなよ? もし端午の節句の五色の薬草でも飲まれたら全て台無しになってしまう」
なんかヤバイ、と感じた娘の母は、早速娘にその薬草を飲ませてみた。
お蔭で娘は大事に至らずにすんだ。
後にわかったことだが、その通っていた男は近くの沼に棲む古鰻で、男の通った後にはびっしりと鰻の脂が着いていたのだそうな。
――鰻は、未だに謎が多い。例えば産卵についても明確にはなっていないし、(近年産卵場所は特定された模様)養殖に関しても、遥かマリアナ諸島沖から日本へ辿り着いた稚魚をかっさらい、育てているに過ぎない。(故に本当の天然鰻は滅多にいないらしい。ほぼ養殖用としてとられちゃうから)
鰻は、わざわざ3000㎞以上離れた海まで旅をして産卵し、産まれた稚魚は遥か遠い日本目指して戻ってくる。なぜそうする必要があるのか、近場で産卵じゃダメなのか、など、やっぱりよくわかっていないのである。
その内の一匹が、
「なら人間に孕ませちゃえばいんじゃね?」
と怠け心を出したのが今回紹介した鰻男なのかも知れない。
もし鰻男が娘に無事産ませていたのなら、世界の鰻事情はまた少し変わっていたのかも知れない。なわけない。