へそごま妖怪ひょうとく
ひょうとく
憤怒の炎だ!
火吹き男の顔が元になっているとか、火男が転じてなったとかと言われるひょっとこ。
幼い頃に見たひょっとこはとにかく怖くて不気味な印象だった。
しかし東北地方、岩手県には、もっと不気味で変なひょっとこ誕生の民話が残っている。
――ある日、柴刈りに出かけたお爺さんが、奇妙な穴に柴を落としてしまった。
これはまさかマルコヴィッチの穴かと思ったお爺さんは、恐る恐るその穴に入ってみると、なんとそこには館があり、柴もそこに丁寧に置かれていた。
(と、ここまではよくある「お爺さんは山へ柴刈りに」系の話なのだが、ここからがちょっと変わっている)
お爺さんは例の如くたらふくごちそうを食べ、贅沢な時間を過ごした。帰りには館の主にお土産まで貰ったのだが……そのお土産は、へそのごまを取ってばかりいるねじまがった口の男の子だった。
家に帰ったお爺さんは、この子の何がお土産かと訝しんだが、男の子の取るへそのごまは、なんと金の粒だった。
男の子は、毎日三粒だけ、金の粒のへそごまを取ったのだとか。
それからというもの、おばあさんと二人暮らしなお爺さんは大金持ちになるわ子供もできたわで大喜びだったのだが……。
ある日、ちょっと欲を出したおばあさんが、もっとヘソゴマ取りなさいよう! と子供にちょっかいを出し、腹を強く突いた。
加減を知らぬおばあさんはちょっと強く突き過ぎたようで、なんと子供はその衝撃で死んでしまった。
お爺さんは大いに悲しんだが、或る晩子供がお爺さんの夢に出てきてこう言った。
「大丈夫、悲しまないで。僕にそっくりのお面を作って家の柱に掲げれば、きっとこの家は繁盛するよ」
そうして出来たのが「ひょっとこの面」なのだと言う。
ひょっとこ誕生には諸説あり、それぞれがそれぞれにそれなりの説得力を持っているのだから判別できない。
何にしろ東北地方では火の神として崇められているし、火を吹く顔が元というのもやっぱり火が関わっている。
となると製鉄が必然的に関係してくるので、んじゃあ神話の天目一箇神(あめのまひとつのかみ)も関係しているのでは? と思ったらやっぱり「ひょっとこの原型とも言われる神」となっていた。
となると、今度は一つ目妖怪とも繋がってくるし、そう言われればひょっとこの面は「片目を瞑っている」ものが多い。
一つ目小僧もひょっとこも、元をただすときっと同じなのだ。
こんなふうに、一つのものを調べていくと思いもよらぬ方向へ行ったり、思いもよらぬモノと繋がっていたりするから面白い。
が。
ここで紹介した民話の、へそのごまに関する部分だけはちょっと関係性がわからなかった。
深読みすれば……火男(鉱夫)を模した子供のへそは鉱山そのものを現し、そこから取れる金はやはり無限ではなく(故に一日三粒)一日に獲れる量は限られており、強引に採掘量を増やそうとしたが為に崩れた(死んだ)、とか。
あれ。意外とそれらしい。