有獣(りあじゅう)
束酢子太郎提供「有獣」
有獣は、恋人達などに幸福感や優越感を与えると云われる妖怪。
読みが「ありじゅう」ではないのかと思うかもしれないが、現在のような読み方になったのには深いワケがある。
昔、ある山中の小屋に住む有吉という名の男が、年中「盛り」であったうるさいオスの狐を捕まえ、去勢してしまった。するとその狐は気が触れたようになってしまい、自分の愚行に反省した有吉はその狐を手厚く看病した。
するとその日から、女などに縁のなかった有吉の元へ沢山の縁談の話が来て、すぐに有吉は結婚することが出来た。
この噂はすぐに町に広まり、盛りの獣は「盛り獣」と呼ばれ有り難がられた。
しかし欲望のみで盛りの動物を捕まえ、有吉を真似て無理やり去勢させる者が後を絶たず、またそのようにして動物を去勢させた者の多くが、縁談どころか不幸なことばかりが起きたという。
その内に人々は、「有吉が幸せになったのは去勢云々の話ではなく、そんな愚行をしてしまった自分を悔い改め、真に反省して狐に接したからだ」と気付き、それ以降、発情期で盛りの動物を「盛り獣」ではなく有吉に因んで「有獣(ありじゅう)」と呼ぶようになったと言う。
――そして、この逸話が時を経て語り継がれる内に、「盛り獣」と「有獣」がごちゃまぜになり、いつからか「有(あり)」の「り」を逆さに読む(さかり、ということ)ようになったのだと言う。
現代でも有獣は見られるらしく、やけに幸せそうなカップルの近くにはかなりの確率で盛りの動物がいるとかいないとか。