燭陰(しょくいん)
『今昔百鬼拾遺』より「燭陰」
山海経に曰、鍾山の神を燭陰といふ
身のたけ千里、そのかたち人面龍身にして赤色なりと
鍾山は北海の地なり
燭陰は中国の妖怪(神)である。
石燕の解説文には、「燭陰とは山海経に書いてある中国の神である。顔は人、身体が龍で赤く、全長は千里にもなる。燭陰の住むのは鍾山(しょうざん)という山で、それは北海の地にある」と書いてある。
平安時代に日本に伝わった、中国の書、『山海経(せんがいきょう)』は、日本の絵師達にも多大な影響を与え、沢山の妖怪を産みだしていった。
特に石燕の『今昔百鬼拾遺』には中国からの伝承に基づく妖怪が多くかかれており、この燭陰なんかはモロである。
因みにこの燭陰、山海経内の記述では、「目を開けば昼に、目を閉じれば夜になる。息吹けば冬となり、吸うと夏になる」という、神々しいまでの能力を有するなかなか凄いヤツである。
こういった伝承が作られた経緯は、どうやら燭陰が北極圏の現象を神格化したモノであるかららしい(昼夜の特殊な移り変わりなど)。
また、京極夏彦の『塗仏の宴~宴の始末~』では、この燭陰が古代蜀の王だったのではないか? という多々良と京極堂との考察があり、とても興味深い。
石燕がそこまでの知識を持ってこの燭陰を描いたのだとしたら――やはり石燕翁はただものではないのである。
なんにせよ、もしこの燭陰を捕獲することに成功すれば……洗濯物を干す際に便利そうである。