静か餅
静か餅(しずかもち)
静か餅は栃木県に伝わる音の怪異である。
画像には触れない。
夜中、遠方から「コツ、コツ」という音を立てる。老人曰く、「その音が近づいて来るのなら餅の中に搗き込まれるので幸運が、逆に音が遠ざかっていくのなら餅の中から搗きだされるから運が逃げて行く」のだという。
また、別名を「隠れ里の米搗き」ともいい、この場合は音を聞いただけで幸運が訪れるのだという。隠れ里を参照してもらえばわかるが、隠れ里自体すごく不気味で単なる桃源郷ではなさそうな雰囲気なので、より不気味さが強調されて「静か餅」より良い名前な気がする。
ところで、僕の住む辺りでも深夜になると「コツ――コツ――」と音が聞こえることがある。
僕は勇気の無い男なので、その音が何なのか確かめることはしない。
だってどうせハイヒールの音だry……
それを見れない僕にとって、それは静か餅なのだ。
ただし、毎回必ずその音は遠ざかっていくので、僕が日頃ツイテナイのも納得である。
なぜコツコツ音がいうのに「静か」という名前がついているのか、と疑問に思ったのだが、きっと「静かな時にしか聞こえない」ということなんじゃなかろうか。そうであるならば、暗にそれがある程度正体の解っている怪異であることをほのめかしているようで、珍しい妖怪と言えなくもない。
そういえば水木先生も「都会じゃあんまり無いけれど、田舎の本当に静かなところだとシズカモチのような現象はよく起きるもの」みたいなことを書いていた。
深夜の静かな世界で、ヤンチャしちゃってるヤング達の喧噪と虫の音を聞きながら、ああ夏が来るなぁ、なんて思ったり。