夜行さん
夜行さん(やぎょうさん)
一部妖怪通の間ではメジャーな妖怪、夜行さん。
主に徳島県に伝わる妖怪で、首の無い馬に乗って夜行日(陰陽道に基づく特定の忌み日のこと。御大は百鬼夜行日とも言っておられる)や大晦日、節分など特定の日に街を徘徊する。白い着物を着ているとも言う。
他に東京は八王子にも現れるという話もあるが、それはあくまでも「首切れ馬に乗る妖怪」というキーワードが一致した為にそう呼ばれるのみで、徳島の夜行さんとは特に関係は無い。らしい。
夜行さんの正体に関しては、「鬼」とされたり、「馬」そのものとされたりもするが、夜行さんの「鬼」の場合は、早計に角の生えた虎柄パンツのアノ「鬼」ではなく、「鬼」=「もの」=「妖怪」と捉えた方がしっくりくる。
晦日、節分などの日に限り現れるということは来訪神としての色が濃く、しかし忌み日に現れる「良い神」では無いのだから「鬼」となる――みたいなことなのじゃなかろうか。(悪い神も、年を越すと福の神になる、なんて特徴もあったりして、確かに夜行さんの伝承には悪いモノばかりでなく福をもたらすような場合のものも存在する)
さらにややこしくなるが、夜行さんは「片目である」という伝承も徳島県には多く伝わっている。
つまり、一つ目である。
水木御大の描いた夜行さんも、大きなぱっちりお目目を持つ一つ目妖怪。
一つ目小僧も、来訪神としての特性を持っており、これもやはりミソカ節分庚申待ちなどにやってくる。
徳島県だけの特異な妖怪かと思いきや、どうやらそうではなく、他県に伝わる妖怪達とも関係ありそうになってくる。
残る疑問は、「首切れ馬」である。
どうやらこの首キレ馬と白い着物というのは関連しているらしく、「夜にある家を襲う為に、まず馬がいななかないよう首を落とし、その後寝ている主を殺す。その為殺された主の怨念が寝巻姿の白い着物で首切れ馬に跨り現れる」という説がある。
しかしこれだけでは夜行さんと直接関係してくるようには思えないのだが……。
掘れば掘る程墓穴が増えて行く。
人を呪わば穴二つ。
妖怪調べりゃ穴百個。
百の穴にはそれぞれ妖怪が埋葬されていて、その内の一つの妖怪を調べればまた百の穴が増えて――
深淵なる魑魅魍魎の世界の入り口に立っている妖怪の一つが、夜行さん。
どこからでもどうぞ。