素直なべとべとさん
べとべとさん
背後の気配を妖怪に例えた結果生まれたのがこのべとべとさんである。
奈良県や静岡県によく現れたとされるが、背後の気配なんて奈良・静岡じゃなきゃ感じないなんてわけないので全国に似たようなモノはいるのだろう。
名前がべとべとなのは、背後の気配のべたつく感じをそのまま名前にしちゃったんだろうと思う。確かにアレは、なんだかべたつく厭な感じである。
べとべとさんに出会ってしまった時の対処法は、とにかく英国紳士的であればよい。
「お先にどうぞべとべとさん」
そう一言言ってあげるだけで、べとべとさんは素直に先に行ってくれるので背後の気配も消える。
気配だけかと思っていると、たまにべとべとさんは喋ったりもする。
「先に行きたいのは山々だけど、暗くて道が見えない」
普通に暮らしていると妖怪に会う機会なんてそうそう無いのだから、ここはイラっとせずに何か明かりの代わりになるものを貸してあげれば良い。
素直というか律儀というか、べとべとさんはちゃんとそれを借り受けると、翌日には家の前に返しておいてくれる。
現代においては、一人暮らしのマンションやアパート住人に配慮してか、室外の洗濯機の中や宅配BOXにちゃんと借りた物を入れておいてくれる。
奈良県では特にべとべとさんに貸した物が紛失するトラブルが相次いだらしく、妖怪連盟の威信に関わるとかなんとかで徹底した措置がとられた結果である。
因みに毎回誤解されるようだが、返された物がべとべとしていた――なんていう事例は一件も起きていないので安心されたし。
しかし最近べとべとさんは悩んでいるらしい。
「背後にいるのが妖怪じゃなくて人間だった時の方が、今の人って怖がるんです」
暗がりで生きる彼らに、明るい未来など無いのだ。
完