毛だらけ麻桶毛
麻桶毛(まゆげ)
正確には「麻桶(あさおけ)の毛」だが、妖力の高すぎる水木先生の御力でこれをマユゲと読んだのだ。
とにかく。
麻桶毛は徳島県に現れたとされる妖怪で、しっかりと古書にも記述がある。
彌都比売神社(やつひめじんじゃ)で麻桶の中に入れられ、ご神体として祀られていた毛が、神様の気分次第で伸びたりするのだとか。
『阿州奇事雑話』によれば、村を荒らし回っていた山賊が、ある夜に神社に集まって盗品を分配していた時に、神の逆鱗に触れて長く伸びた毛に巻き取られ、逃げられなくなり、翌朝御用となったのだとか。
恐るべきまゆげ。
しかしこの妖怪麻桶毛の罪深いところは、名前がどう考えたってご神体の毛を「眉毛」と結び付けさせてしまうことだろう。
彌都比売神社に祀られているご神体の毛が、一体どこの毛なのかは突き止められなかったが、少なくとも眉毛では無いと思う。
毛をご神体とする神社はかなりの数存在しており、やはり髪の毛が多いようだが中には陰毛を祀る神社もある。
というかそもそもこの毛は「誰の毛」なのかというのは重要で、彌都比売とは弥都波能売(みつはのめ)の事でもあり、魍魎の匣なんかではお世話になった人も多いであろう罔象女神(みつはのめのかみ)の事でもある。
これはまぁ日本神話の中でもかなり有名な水神であり、火の神カグツチを産んでアソコを火傷してしまったイザナミが、その後おしっこした時に産まれた神様。
古来から女性の毛への信仰というのは存在しており、例えばふんばばな橋姫の陰毛を祀る神社もある(橋姫はこれまた水神として名高い瀬織津姫と習合し水神とされる事がある)。
髪の毛に関しては、これまた日本神話の素戔嗚尊の妹姫の髪の毛を祀る毛長神社が埼玉県にある。毛長神社に伝わるご神体の様々な逸話は、どれもやはり「水」の関わるものとなっている。
彌都比売神社というぐらいだから仮にミヅハノメの毛がご神体だとして、水神と関係の深い毛と言うのは上記二つの例から考えると髪の毛か、陰毛。
一見それがわかったところで何の意味があるのか? と思うかも知れないが、学の世界は深いのである。その方面の方々が、その方面の知識でもって深く深く掘り下げていくことにより歴史というのはまた新たな側面を見せたりするものなのだ。
その時識者達の前に現れるのは何毛なのか。神の毛であることは間違いないだろう。
しかし一般人の僕は素直に毛だらけで嫌になってきたので、すごく長い時間をかけて調べて唯一解ったしょうもない結論で終わる。
麻桶毛は眉毛じゃない!