小僧を眺めていたら垂れ乳になっていたんだけどこれなんてテンジ?
テンジ(てんじ)
八丈島にいる子供のような姿の妖怪が、テンジである。
水木御大は天子(てんじ)としているが、他の伝承や民話などでは全てテンジであるようなのでここでもテンジで統一しておく。また、テッジとも言う。
さてそのテンジ。
八丈島の山の妖怪とされ、容姿は子供のようで(水木御大曰く鬼太郎にそっくり)、ヒャッヒャッと特徴的な笑い声をあげるとされている。
いたずらが好きで、よく山小屋に来て、寝ている者をくすぐったりもしたのだとか。
テンジの民話では、このようなものがある。
或る晩、山小屋の番人が寝ていると、戸を叩く者があった。
出てみると、そこには美しい女が重箱を持って立っており、「私は領主様の使いです」と言ってぼたもちの差し入れをくれた。
しかしそこは百戦錬磨の番人、さてこれはテンジに違いない、と確信し、重箱を受け取る際にグイと女の手を掴んだ。
すると女の手は竹でできており、「テンジめ俺を騙す気だな!」と怒った番人はその竹の腕を切り落としてしまった。
テンジは悲鳴を上げて逃げていき、落ちた重箱からは牛の糞が出て来たのだという。
翌日、テンジが山小屋に再び現れ、なんとか腕を返してほしいと懇願してきた。
番人は素直に手を返してやり、テンジはいつものようにヒャッヒャと声を上げながら去って行った。
そしてその年、八丈島を大飢饉が襲った。
山小屋で死にかけていた番人だったが、なんと突然山芋や木の実が小屋に投げ入れられたではないか。
誰だかわからぬが礼を言おう、と番人が外へ出てみると、ガサガサと山を駈けて行く音と、いつものあのヒャッヒャという声だけが聞こえたのだという。
腕を切り落とす話というのは、一条戻り橋の鬼の話や、バケモノ膏の話などいくつもあるし、山のモノノケが恩返しする話もいくつもあるので、これもそれらの話が混ざったものだろうとは思う。
とはいえ、決してワルモノには描かれていないのでテンジというのは八丈島の人々にとって守り神的な側面もあったのだろう。
で、八丈島といえば、爆乳の末路妖怪とも言うべき垂れ下がったおっぱいが特徴のババア妖怪、テッチというのがいた。
これは山姥の一種とされているが、山に住んでいる特性と、極めて似ている名前から察するに、元は同じ妖怪なんじゃないだろうかと思う。
ある山の妖怪がいて、ある人は「あれは小僧の妖怪だ。テンジとでも言おうか」と言い、またある人は「あれは山姥に違いない。タレチチだから、テッチという妖怪だろう」と言い、いつの間にか一つの妖怪が二つになってしまったんじゃなかろうか。
ただ、タレチチというとても具体的で特徴的なものを持つテッチの方が、オリジナルに近いんじゃないかなぁとも思う。
まぁ、テッチに関しては幼い頃よく通った銭湯でいっぱい見たけどね。