送り拍子木(おくりひょうしぎ)
送り拍子木
送り拍子木は、東京は本所七不思議のひとつの怪異である。
画像がもう全焼しちゃってるのは気にしないで。
今でも秋から冬にかけては「火の用心!」とかいいながら町内のおじさん達が見回りをしてくれているが、それは当然昔にもあった風習である。
特に昔は夜鷹(お兄さんちょっとシてかない? な方々)だの泥棒だの、今よりずっと物騒な輩がウロウロしていたわけだし、コンビニも24時間のスーパーも何も無いわけで、そりゃもう夜回り組は心細かったことだろうと思う。
そしてそんな状況で、送り拍子木に遭遇してしまうのである。
送り拍子木はいわば音のみの怪異であり、姿形は無い。ただ夜回りの者の掛け声、「火の用心」の後で勝手に「チョンチョン」と拍子木を打つ音をさせるのである。
それはもう夜回りの者は肝を冷やしたものだろう。
――ここからは勝手な想像だが、多分本所辺りには夜に暇をしているイタズラ者が多くて、イタズラのつもりでやったんじゃなかろうか。
実にシンプルだし、効果的だし、もし発覚したとしても「あっしも火が怖くって怖くって、夜めーりの皆さんをちょいと手伝ってやろうってぇ腹づもりでしてねェ」とでも言えば済んでしまいそうなものである。
または、普通に隣組の音が風に乗って聞こえてきた――とかだろう。
ところで、ちり紙交換やら選挙カーの騒音は心底腹立たしいのに、火の用心だとか石焼き芋なんかは僕は許せてしまう。
季節感とか、風情とか、そういうモノがあるから、むしろそれは過去の記憶をチョチョンと刺激したり、ノスタルジックな想いに浸れる、いいものになるからである。
最近では消防車がカンカン鳴らしながら徐行運転で防火防災を呼び掛けていたりするが、やっぱりあのおっさん達の「ひのよぉぉじん!」という声の方が良い。
言霊ってやつなのか。それに人の声の方が温かくて、効きそうな気がする。
機械が人から奪ったものは、多分活気。