百々爺(ももんじい)
『今昔画図続百鬼』より「百々爺」
百々爺未詳
愚按ずるに、山東にももんがと称するもの、一名野衾ともいふとぞ
京師の人小児を怖しめて啼を止むるに元興寺といふ
もゝんぐはとがごしとふたつのものを合せて、もゝんぢいというや
原野夜ふけてゆきゝたえ、きりとぢ風すごきとき、老夫と化して出て遊ぶ
行旅の人これに遭へば、かならず病むといへり
百々爺は、石燕が様々な言葉遊びや謎解き要素を盛り込んだと思われる、真に理解するには妖怪への深い知識が無ければならない厄介な妖怪。
なんとか頑張って理解できるよう、順を追って読み解いていく。
まずは石燕の解説文、
「百々爺未詳。愚按ずるに 山東に摸捫ぐはと称するもの、一名野襖ともいふとぞ。
京師の人小児を怖しめて啼を止むるに元興寺といふ。もゝんぐはとがごしとふたつのものを合せてもゝんぢいといふ。
原野夜ふけてゆきゝたえ、きりとぢ風すごきとき、老夫と化して出て遊ぶ。行旅の人これに遭へばかならず病むといへり」
まずは冒頭、「百々爺未詳」とあり、いきなりのよくわからん宣言から始まる。石燕的にも結構ややこしかったのだろうか?
次に、「山東に摸捫ぐはと称するもの、一名野襖ともいふとぞ」とある。
「山東にモモンガという名前の動物がいて、別名野衾(のぶすま)とも言う」、という意味である。
さらに京都では子供を諫める際に「元興寺(がごじ)」と言って脅かす、とあり、「ももんじい」とはモモンガと元興寺を合わせたモノだ、と石燕は書いている。
そして最後に、「夜も更けて風強かったりすると老人に化けて出て遊ぶ。旅の者がこれに逢うと必ず病気になっちゃう」と書いて終わっている。
いきなり出てくる「必ず病気」設定。これは、モモンジイと言う言葉が鹿やイノシシの獣肉を指した言葉でもあることから、江戸時代に禁じられていたモモンジイ食いへの皮肉、との説がある。
さらによく見れば百々爺自体が毛深い獣のようであり、ここでも獣肉としての「モモンジイ」が掛かっているのかもしれない。
絵でもう一つ気になるのが、紅葉の葉らしきものが沢山描かれていること。百の紅葉で百々爺……チキショー洒落か!
では纏める。
・モモンガと元興寺が合わさったのが百々爺である。
・百々爺に道で行き合うと必ず病気になる。
・洒落と皮肉が一杯である。
結論、百々爺未詳(よくわかんね)。