土蜘蛛(つちぐも)
『今昔画図続百鬼』より「土蜘蛛」
源頼光土蜘蛛を退治し給ひし事、児女のしる所也
土蜘蛛は、酒呑童子討伐でも有名な源頼光一行によって討伐された蜘蛛の妖怪。
鬼の顔に長い手足を持ち、糸を吐いて人間を搦め捕り、喰らうと言う。
『土蜘蛛草紙』を筆頭に、土蜘蛛討伐の物語はいくつか存在しているが、実はこの「土蜘蛛」とはそもそも妖怪を指す言葉では無かった。
古来の日本において、天皇へ従わない土着の豪傑達を、蔑むニュアンスを多分に含んで「土蜘蛛」と呼んでおり、これは沢山の書物からも解っている事実である。
土蜘蛛という言葉も、由来は土に籠って従わない、という意味の「土隠り(つちごもり」から来ており、スパイダーマンのあの蜘蛛とは無関係であることも知っておきたい。
ではなぜ妖怪になってしまったのか?
と言えば、そんなのは単純で「蜘蛛の妖怪にしちゃって討伐物語にしちゃった方が解り易い」からだったのであろうと思われる。
天皇に恭順しない「土蜘蛛」達を妖怪に置き換え、源頼光というヒーローに討伐させる物語に変えてしまった――だけのことである。
実は酒呑童子討伐も、土蜘蛛のように実際にあった土着の者達と都とのイザコザが元になっている説もあり、妖怪譚というのは結構その当時の出来事を反映している面白いモノだったりする。
もしかしたら、現代の「社会に従わずに部屋に籠る」人々も、後世に「妖怪部屋蜘蛛」なんて名前で語り継がれ、崇められたりするかも。
その際「源頼光」役をやるのは……うん、世の母ちゃん達以外にいなそうだ。
追記
↓の絵は、寝所を襲われた頼光が土蜘蛛を返り討ちにする場面。芳年の描いた土蜘蛛はなんだか憎めない感じでカワイイ。
『新形三十六怪撰』より「源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」
更に、月岡芳年は『新形三十六怪撰』の遥か前にも土蜘蛛を描いているが、解説文とミスマッチな物凄く「ふつう」な土蜘蛛になっている↓
『和漢百物語』より「源頼光朝臣」
多分、芳年は蜘蛛の事嫌いじゃないんだと思う。