通り悪魔(とおりあくま)
通り悪魔
通り悪魔、または通り者は、ぼうっとしている心に憑依する妖怪。
心を常に落ち着け、冷静でいる者には憑きにくいが、そうでなければ誰にでも憑依する可能性のある恐ろしい妖怪である。
正体は定まっておらず、老人であるとか鎧武者であるとか様々に伝わる。
現代でもよく「通り魔」と言うが、それの語源にもなっていて、ふとした瞬間に魔が差し、自分では思ってもみない行動を起こしてしまったりする。
ほんの僅かな心の隙間に、自分らしからぬ感情が沸いたのならこの「通り悪魔」の仕業かもしれない。
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通り悪魔も通り魔も
疲れていたんだと思います。
夫は毎晩飲んで帰る。二人の娘はほぼ毎日学校で何かをやらかす。お隣さんとの折り合いも悪く、夫や娘達の事で嫌味を言われる。
それに理由なんて無かったんです。決意も、覚悟も、必要無かったんです。
ただ私は酔っ払った夫に叩き起こされ、夜食を作る羽目になり、キッチンに立っていた。
ただ私は夫の夜食を作る為に、手に包丁を持っていた。
本当に、それだけのことだったんです。
一つだけ普段と違った事は……その時通り悪魔が現れたことぐらいでしょうか。
ほんの僅かな隙にそれは現れ、消えていきました。
通り悪魔はその刹那に、「今、夫を刺せば全てが好転するんだ」と私に言ったのです(言ったような気がした、の方が正しいかも知れません)。
だからーー私は夫を刺しました。
酔っ払って、大袈裟にテレビを見て笑う夫の、首筋を。
夫が助かって本当に良かったと思っています。夫の事を嫌いになったわけではありません。殺したいなどと思ったことも一度もありません。手を煩わせるけれど、娘達のことも大切に思っています。もちろん、家族で過ごすひと時も大切に思っています。
ではなぜ刺したのか?
強いて理由を付けるならば、通り悪魔が現れた……本当にそれだけなんです。
それよりも、理由のある殺人の方が少ないのではないでしょうか。
通り悪魔はいつでも、誰の元へでも、現れると聞きます。
そして通り悪魔は、どんな善良な者も、一瞬の心の油断に浸けこみ、私のような行動を起こさせるようです。
つまりそれは「魔が差す」ということなのでしょう。
夫は毎晩飲んで帰る。二人の娘はほぼ毎日学校で何かをやらかす。お隣さんとの折り合いも悪く、夫や娘達の事で嫌味を言われる。
それに理由なんて無かったんです。決意も、覚悟も、必要無かったんです。
ただ私は酔っ払った夫に叩き起こされ、夜食を作る羽目になり、キッチンに立っていた。
ただ私は夫の夜食を作る為に、手に包丁を持っていた。
本当に、それだけのことだったんです。
一つだけ普段と違った事は……その時通り悪魔が現れたことぐらいでしょうか。
ほんの僅かな隙にそれは現れ、消えていきました。
通り悪魔はその刹那に、「今、夫を刺せば全てが好転するんだ」と私に言ったのです(言ったような気がした、の方が正しいかも知れません)。
だからーー私は夫を刺しました。
酔っ払って、大袈裟にテレビを見て笑う夫の、首筋を。
夫が助かって本当に良かったと思っています。夫の事を嫌いになったわけではありません。殺したいなどと思ったことも一度もありません。手を煩わせるけれど、娘達のことも大切に思っています。もちろん、家族で過ごすひと時も大切に思っています。
ではなぜ刺したのか?
強いて理由を付けるならば、通り悪魔が現れた……本当にそれだけなんです。
それよりも、理由のある殺人の方が少ないのではないでしょうか。
通り悪魔はいつでも、誰の元へでも、現れると聞きます。
そして通り悪魔は、どんな善良な者も、一瞬の心の油断に浸けこみ、私のような行動を起こさせるようです。
つまりそれは「魔が差す」ということなのでしょう。