妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

経立(ふったち)

経立

人も含め、年を経た動物というのは何らかの魔を帯びるもののようだ。

『遠野物語』にも記述があることで有名な経立(ふったち)は、『遠野物語』内では猿の経立として語られている。

山に住む歳を経た猿がなったそれは、松脂を体に塗り、さらに砂で固めて弾丸をも通さない堅さにしたり、里の女を攫ったりするのだという。

「猿の」経立、とされていることから、経立というのが様々な動物にも当てはめられるであろうことが窺える。その通り経立は猿だけでなく、魚だったり鶏だったりもするそうだ。「妖怪」という言葉にも近いのかも知れない。

 

さてこのフッタチ、似たような妖怪名は他の地域にも伝わっている。愛知県北設楽郡では、やはり年を経た狐や山犬、猿を「フッコ」と呼ぶ。

また愛媛でも年老いた動物を「フルセ」と呼んだりする。

愛媛のフルセに関しては、古という字を書くのだろうと想像すると歳を経た動物をそう呼ぶのはわかる。

が、フッコやフッタチはちょっとピンと来ない。

というかフッコにしろフッタチにしろ、元は「フルタチ」だったものを地元の人がフッタチと呼ぶようになって後から漢字を充てたんじゃないか? という気もする。

しかしこういうのはちゃんと何らかの理由があって「経」という字が使われているのだろうから勝手な憶測で突き進んじゃダメなわけだが。

 

つうことでなぜ「経」なのか? と考えるわけだが――

凄く素直に解釈すれば、年を経て立つバケモン、ぐらいに捉えればすんなり納得できる。

他には経はお経の経でもあって神様仏様と結びつきやすいから、という可能性もある。

自らややこしく考え過ぎてみると、経という字は元々機織りの縦糸を現す漢字であるわけで(緯度経度がそれぞれ横、縦なのもそのせい)、縦という意味にさらに立つという漢字を加えた畳語になっているのかも知れない。だとしたら「妖怪」という言葉と更に似てくることになる。

 

と、経を「フツ」と読んでいることにも注目しなければならないだろう。

フツと聞いてフツフツと連想するのは経津主神(ふつぬしのかみ)。これは日本神話に出てくる神様で、タケミカヅチと縁が深い。

また、経津主神は剣を神格化した神様だとも言われており、フッタチ、フツのタチと考えられなくもない。

でもそもそも岩手県らへんに経津主神と関係あるような話があるのか?

これが、あるのだ。

話というわけではないが、古来経津主神を祀ってきた物部氏の一族が、陸奥(岩手とか青森とか)にいたかも知れない可能性があるらしい。

ややこしいのがタケミカヅチは別名をタケフツノカミと言ったりすることから同じ神と考えられたりして結果神格がタケミカヅチに奪われた具合になっていること。

神が零落して妖怪となる――と説いたのはまさに柳田翁。これももしかしたらそういうことなのかも知れない。

 

結論

でもややこしいから「歳を経て立った動物」でいいと思うの。