一声叫び
一声叫び(ひとこえさけび)
妖怪は人に声を掛ける際、なぜか同じ言葉を繰り返すことをしない。
岐阜県大野郡の山では、その決まりを守り、人と人とが呼び合う場合は必ず二回繰り返して呼び合ったのだという。
仮に妖怪の一声に反応してしまうと、良くないことが起こると信じられていたからだ。
沖縄でも、夜に声をかけられたら必ずふた声で返事をしないと、妖怪とみなされてしまうという風習があった。
他にも長野県に一声オラビという怪異が伝わっているが、オラビとは「叫ぶ」ということなので、一声叫びとほぼ同じ妖怪だろうと思う。
ただ一声オラビの場合は、山が鳴動するなどのちょっと大がかりなイベントが付随するようなので、一声叫びよりもパワーがありそうだ。
声を掛けて相手が妖怪でないことを確認する、という部分では、逢魔が時(黄昏時のこと)もそうだ。
丁度相手の顔が見えにくくなるような時間であるから、二声「もしもし」と通りがかった人に声を掛ける。それに答えたのなら人間、答えが無かったのなら、それは妖怪――。
たそかれ時(誰そ彼時)たる所以である。
妖怪は一声、という決まりがいつ出来たのかは調べきることが出来なかったが、確かに考えてみると呼び掛けに使う言葉は大体二言にして違和感の無いものしかない。
ねぇねぇ、もしもし、YoYo、やぁやぁ、などなど。
これももしかしたらそうした風習に根ざした名残なのかも、と思うとちょっとワクワクする。
ちなみに繰り返しの同じ言葉で出来ている言葉を「畳語」と言う。世界を見ても、一部の国を除いて畳語が多い国というのは珍しい。
これもまた妖怪のせいなのかも知れない。