ちゃんと死んでよ死人憑き
死人憑き(しびとつき)
死んでしまった者が甦るというのは人類の夢でありファンタジーでもある。
しかしこの死人憑きの逸話は、ぬか喜びしてられない生々しい感じになっていてとても面白いので、紹介する。
鳥取県での出来事。
ある農家の男が、長い間病気を患った挙句に死んでしまった。
家族や親戚は大層悲しんだが、死んだものは仕方がないので悲しみに暮れながらも葬儀の準備をし、僧を呼んで待っていた。
するとなんと、死んだはずの男がムクっと起き上がったではないか。
一同あっけにとられたが、男は酒や食べ物を要求し、乱暴に暴れまわっている。
「これはまさか死人憑きが憑いたか」
と一人の者が言ったが、対処法がてんで判らない。
とりあえず死んだはずの男に酒や食事を出してやったのだが、死んでいるからなのか、まぁよく食べる。
そのうえすぐに暴れ出し、その力はとても人とは思えないほどだったという。
困ったことにその憑き物はなかなか落ちず、二日三日男はそのように暴れ、飲み食いを続けた。
日数が経つにつれ、親族も「もしやほんとに生き返ったのでは?」と思い始めたが、日に日に男は悪臭を放つようになっていった。腐っているのだ。
そればかりか、今度は体の穴という穴から臭くて汚い液体がどろどろと零れるようになり、男はまさに屍人となっていった。
「ちゃんと死んでくれんかねぇ」
そんな声が親族の間から出るようになった日、男は突然バタリと倒れ、そのまま動かなくなった。漸く、ちゃんと死んだのだ。
親族達は慌てて再度葬儀の準備を始めたのだという。
――なるほど夢も希望もありゃしない、ただ迷惑な再生であったわけだ。
憑き物も死人に憑くとはタチが悪い。どうやら死人憑きにはお祓いも何も効かないらしいのだ。
飯は食うし酒も飲むのに体は死んでいるから腐敗していく。
人があこがれ続ける禁断の「蘇生」は、少なくともコレではなさそうである。