妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

話は最後まで聞きましょう『月百姿』より「三日月の頃より待し今宵哉 翁」

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『月百姿』より「三日月の頃より待し今宵哉 翁」
 
 少しだけの情報で全てを知ったような気になることは誰にでもあるだろう。
僕もある。
んが、往々にしてそういう場合は恥をかくことになっている。
実はこの妖怪図鑑を更新している際にも、そういうことが結構ある。
ある情報を見て、それが全てと思い込んで記事を書いたのに、後々それは極一部でしか語られない説であったりして、一般論は全然違ってた――とか。
日常会話でも、
「おもしろいよねぇ――」
「そう? たまにそう言われるけど」
「は? 天気の話だけど」
「あ……うん。面白いよね、最近の天気(!!?)」
みたいな。
ねぇか。
 
そんなこんなで今宵の『月百姿』の一枚は、「三日月の頃より待し今宵哉」。
この逸話を知らない人にはなんのことだかさっぱりだろうが、ちょっと簡単に説明する。
 
ある晩、山の中の村で、満月の夜に行われていた句会にとある翁(じいちゃん)が行き合った。
村の者が酔っ払いながら「爺さん、あんた俳句って知ってるかぁ? どうだい、一句詠んでみてくれよ。折角の句会だからよぉ!」と翁を煽った。
ちょっとイラっとした翁、早速一句詠み始める。
「三日月の……」
そこで村人大爆笑。「満月の夜だってのに三日月で始めるたぁ無知もタイガイにしろよハハハッハハ」
しかし翁は慌てず、
「……頃より待ちし、今宵かな」
と読んで村人達を唸らせたという。
 
――そんな話である。
で、この「翁」が誰なのか、ということなのだが、芳年の絵には名前は「翁」としか書かれていない。そこでこの句を調べると、「小林一茶」の名前が挙がった。
そこで僕はこの翁は一茶であると信じて書き始めたのだが……。
この逸話の教訓は「話は最後まで聞きましょう」である。また僕は同じ過ちを繰り返すところだった。
もう一度調べていると、今度は「松尾芭蕉」の名が出てきた。
危ない危ない。またまた恥をかくところだった。
しかしこの逸話、明確な人物が誰なのかは結局解らなかった。というのも、小林一茶と松尾芭蕉、両名ともこの逸話があるからである。
因みに、芭蕉の句一覧を見ても、一茶の句一覧を見てもこの逸話に出てくる一句は載っていない。
ただ、落語の中でこの逸話がちらと出てくるものがあり、そこでは「芭蕉」と断言していた。
 
大事なポイントとして、芳年はこれまで多くの人物を実名で登場させてきたのに、この絵では「翁」としている点。
冷静に考えると、「そういう逸話があった」だけで、特に誰の話とかではないのかもしれない。それを後年やれ芭蕉だやれ一茶だと勝手に解釈してしまったものなのかも。
 
しかし、曖昧な所に着地するモノというのは妖怪同様なんだか胸がときめく。
僕が「お、いいな」と思った芭蕉の秋の月の句と、一茶の秋の月の句を載せておくので、その句からあれこれ勝手に推測して胸ときめくアタイまだ16歳な気分を味わって欲しい。
 
名月や池をめぐりて夜もすがら 芭蕉
(名月見ながら池の周り散歩してたら夜が明けちゃったでござる)
 
名月をとってくれろと泣く子かな 一茶
(名月をとってとって、なんて言いながら泣く子供がいたんです)