妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

人魚で比べる世界と日本 ~世界の怪物と日本の妖怪研究その2~

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 世界の怪物と日本の妖怪研究第二回です。

前回は一回目なのにギリシャ神話と日本の神話の関係性に足を突っ込み、初回から深みに嵌ってパニックルームという悲劇が起きましたので、今回は少しだけ視点を変えます。その1「キマイラと鵺」へ

 

 さて今回は人魚。

人魚においては、世界と日本とでは異なる育み方をされたことが明らかです。

日本に伝わっていた人魚は、中国の『山海経』に依るところが大きく、その影響のせいか美女として描かれることは無く、災害の前触れであったりと凶兆の前触れとされる事が多かったようです。

古くは『日本書紀』にその記述がある人魚ですが、世界共通の一般的イメージである「下半身が魚、上半身が人」というものになったのは江戸時代後期。

江戸時代には、西洋人向けに偽造された人魚のミイラ等が売られていたとのことですから、西洋人がそういう人魚のイメージの人魚像を持っている事を知っていたわけで、少なくとも江戸時代後期には西洋の人魚像は日本にも伝わっていたことが解ります。

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上の画像は鳥山石燕による『今昔画図続百鬼』に描かれた「人魚」。

石燕は江戸時代の人ですが、この人魚の絵は解説文を読むと中国の人魚を元にしていることが解ります。(石燕の解説文には、最後に人魚が氐人国(ていじんこく)の人とも云う、と書いてあり、氐人国とは中国の和漢三才図会に出てくる国だからです)西洋から少し異なる人魚像が入ってきていたとはいえ、そちらに完全に移行することは無かったようです。

というのも、中国から伝わった人魚は、「架空の生物」というよりは、「実在する動物、魚の事を人魚と呼んでいた」感が強いからではないでしょうか?

『山海経』では、人魚はオオサンショウウオである、とも書かれており、魚がイコール人魚にされていることが解ります。

 ――で、日本に伝わる人魚伝説の最も有名なのが、八百比丘尼(やおびくに)の伝説です。

八百比丘尼伝説とは、超簡潔に書けば「人魚の肉食べちゃった八百比丘尼という娘が何百年も生きちゃった話」ですが、この伝説の元になっている「人魚の肉は不老長寿の効果がある」というのは、恐らく人魚の元がオオサンショウウオ等の魚であったから(オオサンショウウオは今でこそ天然記念物になり食べられないが、昔は貴重な魚として食べる地域もあった)こそ有り得た設定なのでは? と僕は思います。

 

では次に世界の人魚(マーメイド)を見てみましょう。

圧倒的世界の人魚の美女率。この差は一体なんなのか!

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 その謎は先に述べたように、日本に伝わった人魚はあくまでも実在の魚が元になっているからでしょう。やはり日本は等身大の、身近な怪異、生物から人魚をイメージしていったわけです。一方の世界の人魚の多くは、アレゴリック(寓話的)であり、日本のそれより遥かに抽象的であると言える気がします。

例えばギリシャ神話にも登場するセイレーンは、その歌声で人々を魅了し、船も難破してしまうといいます。

 これは僕の推測ですが、セイレーンのような人々を魅了し、惑わせる怪異は、海上だから成立したものだと思います。海の持つ母のイメージ、無限に広く果てしないイメージ、航海時の主な乗員であった男達の羨望や願望、波の音、鳥の声、幻聴、幻視。

そういった様々な海上で起きうる現象を元に、教訓としてのセイレーン像が形作られていったのではないか、と思います。

因みにギリシャ神話におけるセイレーンは元は人魚ではなく半人半鳥でした。

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 それがいつしか人魚となったのですが、その変化については諸説あり、羅針盤などの発達により、沖への航海が主となった際、目印となっていた陸上の鳥から大洋の魚へとイメージが移行していったのではないか、との説が有力です。

――尚、イギリス等で呼ばれるマーメイドも、ドイツに伝わるローレライも、ベースとなっているのはギリシャ神話のセイレーンです。

これは単純に、ギリシャから同じヨーロッパの国々へ伝わったと考えられるでしょう。中国から日本へ伝わったのと同じですね。

 

とにかく、誕生経緯の大きな違いから、西洋人魚は超絶美人で、日本の人魚は……という差がついてしまったようです。

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 上は人魚版セイレーン。ふつくしすぎ。

 

なんだか今回は「まぁそうだよね」的気分に僕自身なっちゃってて残念なので、豆知識を書いて逃げます。

豆知識1、警報などを意味する「サイレン」という言葉は、セイレーンが語源です。海上で人々を惑わす歌を歌っていたセイレーン。それがいつしか「キケンな音」というニュアンスを残し、警報、警告音という意味も持つようになったのですね。ふーん。

 

豆知識2、スターバックスコーヒーのロゴは知ってる人もいるでしょうが人魚です。二つの尾を持つ人魚です。

これは、スタバ創始者がロゴで悩んでる際、コーヒーの運ばれてくる経路などを書いた資料を眺めていて、北欧の木版画になっていた人魚に惹かれ、それをそのままロゴにしたらしいです。

因みに、途中アメリカにて「二股開いた女のロゴなんて卑猥だわ!」と難癖付けられたので、現在のような下半身の描かれていないロゴに変えたそうです。

 

――なんだか、どの伝説上の生物を調べていてもギリシャ神話が出てきて僕恐いよ。。。