火前坊(かぜんぼう)
『今昔百鬼拾遺』より「火前坊」
鳥部山の烟たちのぼりて、龍門原上に骨をうづまんとする三昧の地よりあやしき形出たれば、くはぜん坊とは名付たるならん
火前坊は火に包まれた僧の怨霊の妖怪。
鳥部山という山では、かつて僧達が焚死往生を願い、自らの体に火を放ち、命を絶つというおぞましい儀式があった。
火前坊は、その中でも往生できなかった僧の成れの果ての妖怪であり、火と煙を伴って現れるのだという。
自らの体に火を放ち死ぬ……想像するだけで怖くなる行為であるが、それを実行する僧達は余程の覚悟か、悟りを開いていたのだろう。
それに耐えきれず極楽往生できずに妖怪となった者がいたとして、なんら不思議ではない。
合掌。