茂林寺釜(もりんじのかま)
『今昔百鬼拾遺』より「茂林寺釜」
上州茂林寺に狸あり
守霍といへる僧と化して寺に居る事七代、守霍つねに茶をたしみて茶をわかせば、たぎる事六、七日にしてやまず
人のその釜を名づけて文福と云
蓋文武火のあやまり也
文火とは縵火也
武火とは活火也
茂林寺釜は、みんなが知っている分福茶釜のモデルとなった化け狸である。
石燕の画中解説文にはーー
上州(今の群馬県)茂林寺に狸がいた。
その狸は守鶴という名の僧がいた。守鶴は不思議な釜を持っていて、お茶を沸かすと七日間も湯が冷めることはなかったという。
人々は不思議がり、その釜を文福と呼んだという。しかしそれは文武火の間違いである。文火とはぬるい火で、武火とは強い火の事である。
ーーと書いている。
そして、この茂林寺釜のエピソードは、ある日訪ねてきた僧が釜から尻尾が出ているのを発見してしまい、全て狸の仕業であったことがバレてしまう。
狸はインドで釈迦の説法を受け、中国から渡ってきた千年狸だった。
狸はそれまでの罪滅ぼしにと、人々に幻術で様々なものを見せて楽しませてくれたのだという。
そしてこの茂林寺に纏わる狸の逸話が、「分福茶釜」として皆に知られる狸の物語として化けたのである。
狸は物語となるといつも可愛らしい存在感として描かれる。それはやはりこの茂林寺釜にも描かれている、尻尾をうっかり出しちゃうようなお茶目なミスをするからだろう。
めでたしめでたし
追記
こちら↓は芳年の茂林寺の釜。なんというか、もはや逃げも隠れもしない狸のままである。
『新形三十六怪撰』より「茂林寺の文福茶釜」