妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

黒塚(くろづか)

黒塚(くろづか)

『画図百鬼夜行』より「黒塚」
 
奥州安達原にありし鬼。古歌にもきこゆ。
 
黒塚は、福島県にある安達ヶ原に存在する鬼婆のお墓。またはその鬼婆の伝説自体を指す。
 
安達ヶ原の鬼婆伝説とは、東光坊祐慶による鬼婆退治である。
ざっと書くとーー
 
旅をしていた祐慶が、安達ヶ原にて日がくれてしまい、岩屋に泊めてくれるよう頼んだ。すると中には老婆が住んでおり、快く迎え入れてくれた。
老婆が夜中、少し用事があるからと外出した際、決して見てはならぬと念を押されていた奥の間を、祐慶は好奇心から覗いてしまった。
するとそこには無数の人の死体と白骨が散らばっていた。
祐慶は慌ててその岩屋から逃げ出したが、帰宅後その事に気付いた老婆は鬼婆と姿を変え、祐慶を追いかけた。
その後すったもんだの挙句、祐慶は鬼婆を討伐、その鬼婆は阿武隈川近くに葬られ、その地は「黒塚」と呼ばれるようになった
ーーだ、そうだ。
さて、普通はこれで「鬼婆こええぇ!」で終わるのだが、この安達ヶ原の鬼婆には鬼婆が鬼婆になるまでの物語がある。せっかくなので黒塚をもっと知るためにも簡単に書いておく(諸説あるものの、大体の話の核は同じ)。
 
あるところに我が娘を愛する女がいた。
しかし悲しい事に、女の娘は幼い時から病を患っていた。
ある時女が易者に相談すると、「妊婦の腹の中の赤児の、その肝を喰わせれば治るでしょう」と言われた。
女は最愛の娘のため、藁にもすがる想いで易者に言われた通り妊婦の赤児狩りをするべく、家を離れて旅に出る決意をした。
女は安達ヶ原という場所に頃合いの岩屋を見つけ、そこで妊婦を待つことにした。長い長い年月が過ぎ、ついに絶好の機会が訪れた。
夫婦(嫁は妊婦)が岩屋に宿を乞いに訪ねて来たのだ。女は喜びを堪え、夫婦を岩屋へと迎え入れた。
そして夫が外に出た機会を見計らい、妊娠している妊婦を殺し、さらにお腹の中の赤ん坊を殺した。
これで赤児の肝も手に入れた。後は愛する娘にそれを食わせるだけだ!
そう思っていた女だが、殺した妊婦の身に着けていたお守りに目が留まった。
それは自分が家を出る際娘に着けたお守りと同じもの。そして……自分が殺した妊婦は、よく見れば見る程、自分の娘にそっくりだった。
そう、女は長い年月を岩屋で過ごすあまり、自らの娘に気付かず殺してしまったのだ。
以後、女は気が狂い、その岩屋に籠っては訪ねてくる旅人を殺し、生き血を啜る鬼婆へとなったそうな。
 
――なんとも後味の悪い話であるが、この話を知っているのと知らないのとではまた「黒塚」という妖怪への認識も変わってくるものと思う。
果たして誰が本当の「鬼」なのか?
人の心の弱さと怖さが解る黒塚の安達ヶ原伝説であった。めでたしめでた……くはないか。