鉄鼠(てっそ)
鉄鼠は、平安時代の頼豪という僧侶が化けた鼠の妖怪。「頼豪鼠」とも言う。
なぜ頼豪が鼠になったかと言うとーー
僧侶である頼豪は、白河天皇に「なんでも褒美を取らせるから」という約束の元、天皇に皇子が誕生するよう祈祷することになった。
頼豪の祈りあってか無事に白河天皇は子をもうけた。頼豪は約束に従い、「三井寺に戒壇を建立して欲しい」と天皇にお願いした(戒壇とは、出家した者が正式に僧侶になったと認められるようになる儀式の事。それをする場所)。
しかしなんと敵対していた勢力である延暦寺に横槍を入れられ、頼豪の願いは叶わなかった。
「おいまて話がちげぇぞゴルァ!」
と怒った頼豪は、今度は誕生したばかりの皇子を魔道に落とすべく、断食して呪い続けた。
しばらくして頼豪はそのまま死んでしまうのだが、恐ろしい事に怨みの力で皇子は若くして死んでしまった。
更に頼豪の怨念はそのまま巨大な鼠となり、八万四千匹の鼠を従えて延暦寺を襲ったと言う。
ーー三井寺と延暦寺との同宗が分裂したことによる抗争が元になっている妖怪だとは言われているが、なぜお互いがそのような伝承を残ることを許したのか? など謎が多い。
この辺りは、我らが京極夏彦先生の『鉄鼠の檻』を読むと色々スッキリする。
仏教の、特に禅宗の理解にも役立つので、その辺りに興味がある方はぜひ読んでみて欲しい。ミステリーとしてもそうとう面白い。
追記
月岡芳年も『新形三十六怪撰』にて鉄鼠(頼豪鼠)を描いているので掲載しておく。構図からして石燕の鉄鼠に影響を受けて描いたものだと思われる。
『新形三十六怪撰』より「三井寺頼豪阿闍梨悪念鼠と変ずる図」