ぬっぺふほふ・ぬっぺっぽう
ぬっぺふほふ
『画図百鬼夜行』より「ぬっぺっぽう」
オマケの昔書いた創作譚↓
おい、ぬっぺふほふの足が速すぎるぞ
いや、その前にだ。言いにくすぎるだろ。ぬっぺふほふ。噛むわw
まぁいいや。
ぬっぺふほふっていうのは、のっぺらぼうに似てなくもないけど、顔っぽいのがあるから一応違うと思う。昨日の夜、追いかけたんだから間違いない。
俺の住む地域では、結構噂は聞くんだ。ただ、見たことあるやつは周りにはいなかった。見たことあるなんて言ってるのは、大体ジジイになってる世代ばっかり。ぬっぺふほふって、レアな妖怪じゃないみたいで、しかも存在理由が皆目わからん謎の妖怪らしい。
有名な話だと、「肉人」って聞いたことないかな?
これはかの徳川家康が体験した話で、夜に赤ん坊みたいな小さいヤツが訪ねてきたんだと。それがまぁ不気味な容姿で、言い表すなら「肉人」としか言えないような、キモイ肉の塊だったらしいんだ。しかもそいつはめちゃくちゃ逃げ足が速くて、全然捕まらなかったんだと。
結論を言えば、俺も昨日、肉人を見つけちゃったわけだな。
見つけた、っていうか、見つけちゃった、っていうか。
昨日、俺は彼女ん家に遊びに行ってたんだ。バイトばっかでなかなか会えなくて、久々の再会だったもんだからそりゃもうヒートアップしたよ。何がって、アレがな。
すっかりスッキリしちゃった俺は爽やかに帰り道をチャリで帰ってたわけだけど、俺の住んでる辺りはかなり田舎だから、街灯があんまりないんだよ。それに、俺が帰ってた道は滅多に人も通らないようなところだったから、爽やかにチャリでかっ飛ばしてたんだ。そしたら――何かを轢いたんだよ。
「プミャァ!」
みたいな鳴き声が響いた。そりゃもう焦ったさ。てっきり俺はネコとか、小動物を轢いちゃったんだと思ったんだよな。もう爽やかな気分は一気にどんよりした何かに包まれちゃってさ。で、月明かりに照らされた何かを恐る恐る見てみたら……なんかこう、ブヨブヨして気持ち悪い肌色の何かが、短い手で尻(ってか背中か?)のあたりをスリスリしてたんだよ。
キュン(*´ω`*)
なんてしねーよ。でも正直ちょっとだけ可愛かったな。ただ、その謎の物体Xがこっち向いた瞬間、俺は女みたいに叫んだね。「キャー」ってやつだ。多分、楳図かずおの漫画的タッチで再生してくれればベストだと思うぞ。
そいつの顔、しわしわでぶよぶよで、目なんか肉に埋もれてほとんど見えねぇし、鼻なんか穴がどこにあんのかわかんないし、てかそんなことより何より手足が顔から生えてるみたいになってんの。もうすんげぇキモイの。ただ、それ見た瞬間、この辺に伝わってるぬっぺふほふだ、ってすぐにわかった。なるほど、家康が肉人って呼んだのも激しく同意だ。もう完全に肉の人だったわけだ。
で、次に俺は考えた。
「妖怪轢いちゃったんだけど、どこに連絡すりゃいいんだ?」
って。妖怪轢いたから警察、ってのもおかしいだろ? かと言って妖怪にも警察的役割の機関があるかなんてわかんないだろ? 仮にあっても連絡先知らないし。
――なんて馬鹿なこと考えてたらさ、ぬっぺふの野郎、明らかに「うわやべぇ」みたいな顔になったんだよ。これは記憶も鮮明だから間違いないと思うんだけど、あれは絶対「うわやべぇ」っていう顔だった。
その顔した直後、ぬっぺふは猛然と走りだしたんだよ。コイツな、後姿だけは可愛いんだ。必死こいてペタペタパタパタ走るんだ。手なんか横に可愛く突き出してな、アラレちゃんみたいに走るんだよ。
俺も、一瞬戸惑ったけど、逃げられたらなんか追いかけたくなっちゃうだろ? そこはわかってくれるだろ? だからチャリで追っかけたわけだ。
しかしやっぱり妖怪はスゲー。
俺が全力で漕いでも、絶対に追いつけないんだよ。明らかに遅そうな走り方でぺたぺた逃げてんのに、絶対に距離が縮まらないんだよ。で、諦めようと思って速度落とすと、あっちも少しゆっくりになるんだよ。「何がしてぇんだよwww」って思ったよ。
十分ぐらいは追っかけたと思うんだけど、いい加減肉の塊追っかけるのも飽きちゃったし、帰り道も随分逸れちゃったし、捕まえるの諦めて帰ることにしたんだ。一応、最後に「轢いてごめんなー」って言っといた。それ言った時にもぬっぺふはペタペタ走り続けてたけどな。
――で。色んな人に話して回ったよ。そりゃ。
たださ、なんかこう、しっくりくる後日談みたいなのって欲しいじゃん? 「あの妖怪はな、カクカクシカジカ――」みたいにさ。それが全く無いんだよ。誰も、ぬっぺふほふが何したいのか、どういう妖怪なのかは知らないんだよな。
だから勝手に推測するわけだけど……
わかんねぇよなw 轢かれて、うわやべぇ、って顔して逃げて、ひたすら逃げて。
たぶん、何がしたいわけでもねぇんだろうな。運悪く見つかっちゃった、そんなとこじゃないのかな。
とにかく、もしまた見つけたら、今度は最後まで追いかけ続けてみるわ。
あのブヨブヨした尻が恋しい……わけじゃねぇぞ。