海小僧(うみこぞう)
海小僧
海の妖怪は実に多い。
海坊主もいれば海人魚もいるし、海和尚に海女(あま)、とまぁ数えはじめればキリが無い。
としたら、江戸時代では片っ端からアイドル的人気であった小僧が海にいない筈がないのである。
というわけで海小僧。
静岡県は賀茂郡南崎村の仏島で、釣り人が釣りをしている時に突然糸を手繰って現れたのだという。
その姿は目の周り以外は全て毛に覆われているようで、また小僧のような大きさだったのだとか。
海小僧は釣り人の方を見てニッコリ笑ったのだと言うが、釣り人はとんでもなく恐ろしかったようで逃げ帰っただけでなく後にその場所に地蔵尊まで建てたらしい。
さてでは一体この海小僧はなんだったのだろうか?
なんて野暮な事を考えてみたいと思うが、真っ先に思いついたのは、「ウニ」である。
ちょっと釣りには詳しくないが、普通に海釣りをしていてもウニはまぁ釣れないだろう。それが突然、たまたま針に引っかかってしまい釣れてしまった。
なんだかわからぬが手ごたえがあったので引き上げてみれば毛だらけの真ん丸の「ナニカ」。
最初は釣り人も「このぐらいの大きさの、毛だらけの丸いのが出た!」と言っていたのだが、それが人を伝う内に「小僧ぐらいの、毛だらけの、真ん丸の目の――」という具合に変化していき、それはその地の権力者の耳にも入り、それは何かの前触れに違いない地蔵尊を建てるべぇ――のようになった。
とか。
あとはわかめ被った子供がおどかしに出てきただけなんじゃね。
とか。
伝承というのは本当に伝わって細かな部分が大きく変わることがほとんどなので、その原型を見極めるのは困難なのである。