敷次郎(しきじろう)
敷次郎
日本の古くからある炭鉱には大体出ると言われるのが、この妖怪、敷次郎である。
鉱山における悲惨な事故というのは古今多発しており、鉱山で命を落としてしまった者の魂がこの敷次郎となって現れるのだと言う。
敷次郎は、一見普通の炭鉱夫と同じ姿をしており、坑内に暮らしている。
しかし敷次郎は言葉は通じず、顔も真っ青で、体中から水の流れるような音や、金属音のようなものが常に聞こえるのだと言う。
無害なように見えて、敷次郎が傍にいると激しい悪寒を感じ、その感覚は「爪を剥がれるような、全身を恐怖が突き抜けるような」ものであるとか。
また、時たま人に噛みついてくる。
噛みつかれると、普通に治療しただけではさのキズは決して治らず、仏法に則り適切に処置しなければならない。
鉱山で働き、命を落とした多くの人々の怨み、無念、それらを一身に纏ったような妖怪。
名前の「敷次郎」についても、安易に憶測するには畏れ多い悲しい物語が見え隠れする。
地中深く掘られた坑道には、かつてそこで生き埋めになった人々が今尚多く眠っているという。救助はおろか発見すらされることなく、そのままなのだ。
その上に新たに街を敷き、安穏と暮らす僕等もまた、敷次郎にとっては怨めしい相手になってしまっているのかも知れない。