篠崎狐(しのざきぎつね)
篠崎狐
化け上手なのは当然として、やはり狸より知的なイメージがあるのは狐である。
ここで紹介する篠崎狐は、東京都江戸川区の篠崎村に居たといわれる四匹の狐の話。
――ある夏の日。一人の魚商人がとある家に魚を売りに行く途中で、四匹の白い狐が寝ているのを見かけた。
魚商人は日頃狐にイタズラをされ、魚を盗まれたりしていたものだから、どれちょいと仕返ししてやろうか、と、忍び足で寝ている狐達に近付き、大声をあげて狐達を驚かした。
流石の狐達もそれには驚き、狼狽しながら散り散りに逃げて行った。
魚商人はスッキリした気持ちで道へと戻り、ほどなくして目的の家へと着いた。
するとその家はなんだか慌ただしく人が出入りしている。
話を聞くと、主人の妻が亡くなってしまったのだという。
主人は、「野辺送りが済んだら戻るから、家でゆっくりしててくれ」と魚商人に言い残し、忙しそうに出て行ってしまった。
さてならばそうさせてもらおうか、と家に上がりくつろいでいると――突然死んだはずのその家の主人の妻が現れた。
妻の亡霊は魚商人に噛みつき、魚商人は必死に念仏を唱えたが効き目もなく、もうここで死ぬのだ、と諦めかけたどの時――
たまたま通りかかった男がそれを目撃し、「さては篠崎の狐にでも化かされてるんだべか」と魚商人に水をぶっかけた。
我に返った魚商人は、通りがかりの男に感謝すると共に篠崎狐の話を聞き、それからあの狐達が昼寝をしていた場所へ行き、油揚げと小豆飯を供えて反省したのだという。
冷静に読んでみると、案外可哀相なのは魚商人のような気もする。
狐を殺したわけでもないし、普段から魚を盗られてるわけだし。
とにかく、お狐様には逆らうな、ということなのかも知れない。