ヤロカ水(やろかみず)いらないです
ヤロカ水
梅雨は本当に厭な季節である。
朝晴れていたからと油断すれば帰りはずぶ濡れになる羽目に。
小さい頃は雨なんか嫌いじゃなくて、傘を放り投げてヒャッハー! なんて言っていたのに、今じゃ少し濡れただけで身震いして必死に体を拭いている。
愛知県と岐阜県にかかる木曽川には、ヤロカ水という怪異が伝わっている。
大雨が降って増水した川が、ご丁寧に「ヤロカヤロカ」と言ってくるのだという。
それに「ヨコサバヨコセ!」と叫び返すと、たちまち川は氾濫してしまうのだとか。
まぁ客観的に冷静に考えれば鉄砲水が正体で、何らかの川の音に、「増水したの面白そうだからちょっと見てくる」なんて言いだす今でも存在するような猛者(バカ)が「やれるならやってみろ」と叫んだけど本当に増水しちゃって死んじゃいました――みたいなことが元になってるんじゃないかと思う。
川だけに限らず、雨の力による増水スピードというのは本当に凄いもので、僕も幼い頃にちょっと目を離したら目の前の川が溢れんばかりになってたのを見た記憶がある。
また大人になってからも、普段の通い慣れた道が池みたいになってるのを何度も見た。
つい最近も原付でスプラッシュマウンテンな体験をしたりもした。
自然のパワーを知っているにも関わらず、「ヨコサバヨコセ」なんて川に向かって言っちゃうヤツはやっぱりおかしいと思う。
しかし。
ヨコサバヨコセを逆から読むと……
――特に何もなくてじめっとした厭な気分になる。あなたの裏切られた期待は空に昇り冷やされ固まり雨となって降り注いでいます。
やろかやろか……
やろかやろか……