鬱々とした心から生まれる妖怪「空殻(うつがら)」
LI DOU画「空殻」
時に願望や羨望は形を成し、在りもしないモノを目の前に映し出すことがある。
それこそ妖怪の最も基本的な「湧き方」であり、それは誰の身にも起こり得ることである。
そんな心が生み出した妖怪で、尚且つ若い世代の人々の前に現れやすいと言われているのがこの妖怪「空殻(うつがら)」である。
空(うつ)は空蝉という言葉にもあるように抜け殻のような状態を言い表し、また仏教における空(くう)という「我」の無い状態の二つの意味を持ち合わせている。その為この妖怪は本当に無心で、何も考えていない時に現れやすいとも言われる。
――特に多い目撃例として、鬱状態になっている若者がふと目の前に自らの分身が見え、その背中から新しい自分が殻を破るように出てくる姿を見る――というもの。
悩みを抱え、どうしたらよいか解らない、と悩む若者が、自らが殻を破り飛躍する「願望」を妖怪としてそこに見るのである。
しかし同時に、この妖怪は「悩んでばかりいずに一皮剥けて飛び出せ」という前向きな教訓としても使われることがある。
「空」という字を「うつ」や「くう」と読むのではなく、「そら」と読むだけで印象は一変する。
少しだけ勇気を出して殻を破れば、そこに広がるのは「うつ」ではなく「そら」なのだから。