人面瘡(じんめんそう)
『伽婢子』より「人面瘡」
人面瘡は、人の体に出来た傷が顔のようになり、妖怪となるものである。
人面瘡の逸話が載っている『伽婢子』(おとぎばうこ)によると――
ある農夫が体調を崩し、半年後に左足に腫物ができてしまった。
その腫物は次第に激しく痛むようになり、耐え切れないほどに。
不思議な事に、その瘡は顔のように見えた。そこで試しに食べ物を口のような部分へ与えてみると、飲み込んだのである。しかも、しばらくの間痛みが引いた。
「なんじゃこれ気味悪い」
とは思ったものの、痛みが引くのなら、と酒や食べ物を与え続けてみたが、限界がある。やはり農夫は痩せ細っていってしまった。
しかしある日、たまたま諸国を巡業中の修行僧が訪ねてきて、「私は治す方法を知っている」と言い、農夫にお金を作らせ、それで薬を沢山買わせた。
それを人面瘡に少しずつ与えていったのだが、貝母(ばいも)という粉末だけは嫌がった。しかし修行僧は貝母を無理やり人面瘡の口にねじ込んで飲み込ませると、しばらくして人面瘡は消えたという。
――ただのキズではなく、人を殺そうとしてくるのがなんとも恐ろしい。
因みに人面瘡が最終的に退治されるきっかけとなった貝母とは、ユリの一種であり、地中に貝を重ねたような茎を持っていることから貝母と呼ばれる。さらに、漢方薬としても有名である。
瘡のようなものが妖怪となっているケースは、有名なところだと二口女がいる。
あれは後頭部にできたキズと恐ろしさも人面瘡に勝っている。
なんにしろ、ただでさえケガなんかしたくないのに、それを放置したせいで妖怪になった日にはたまらない。
お医者さんには嫌がらずに早く診せにいきましょう!!