襟立衣(えりたてごろも)
『百器徒然袋』より「襟立衣」
彦山の豊前坊、白峯の相模坊、大山の伯耆坊、いづなの三郎、冨士太郎、その外木の葉天狗まで、羽団扇の風にしたがひなびくくらまの山の僧正坊のゑり立衣なるべしと、夢心におもひぬ
襟立衣は、鞍馬山に住む、牛若丸に剣術を教えたのでも有名な鞍馬天狗(鞍馬山僧正坊/くらまやまそうじょうぼう)が身に纏っていたとされる着物の妖怪。
そう聞くだけだとさぞや立派な着物の妖怪だと思ってしまうが、視点を変えると色々な解釈が生まれる。
これを着ていたと書かれている鞍馬天狗は、元は人間の僧であり、悟りを開いたと誤解したまま死に、その無念さ故に天狗になったのだという。ここで言う天狗とは驕りの象徴である。そして、着る者のいない、器だけの着物となっている襟立衣もまた、少し教訓めいた滑稽なものに見えはしないだろうか。
いくら高僧が着る襟立衣とは言え、着る者すらいないのではなんの価値もないのではないだろうか? つまりこれは見栄や虚勢そのものを風刺した妖怪なのではないだろうか。
……なんていつになく偉そうに言ってみる。