半男半女で人を喰う妖怪「陰陽怪々(いんようかいかい)」
可拉可拉画「陰陽怪々」
黑雲來襲,怪物現身,其叫聲如雷,爬行如電,到底何方妖孽?
一面男一面女,吃人無數
森羅万象は陰と陽とに分けられる――という陰陽思想。
中国にあったその思想は日本にも持ち込まれ、中国のソレとは異なる独自の進化を遂げた。
日本での陰陽道は、陰陽思想だけでなく神道や仏教、更に五行思想をも取り込み、複雑かつオリジナルなものへと変わった。
しかし根本の陰と陽が全ての基礎になることに変わりはない。
陰が存在する為には陽が不可欠であり、その逆も然り。まさに光と影であり、僕たち人間の「男と女」にも当てはまる。
陰陽思想というのは、調べれば調べる程完成されたものであることが解る。
本当に、この世に存在するありとあらゆる物が陰陽に則って説明することが可能なほど。
常に物は陰陽の両方の性質を内包しており、人間の男女に当てはめても同じである。
男は必ず女性的な要素を持っているし、女も必ず男性的な要素を持っている。それらがなくなる、「完全な男」や「完全な女」というのは絶対に存在しない。
この世から女が消え失せたら、男もまた生まれてこないのと同じように。
――妖怪「陰陽怪々」は、陰と陽とが完全に同量で存在してしまっている妖怪であり、最も理想に近い姿であるとも言える。
しかし世界のバランスは陰陽完全同量のモノを良くは思わなかった。
妖怪となる前は実際に生きていた人間だと言われている陰陽怪々は、不気味がられて焼き殺されたとされている。
両性具有や半陰陽と呼ばれる性分化疾患の類とは一線を画すその容姿は、最初めでたがられはしたが最後には憎まれ、疎まれることになった。
理不尽な死を激しく怨んだその念は、いつしか怨霊となり、人々を襲うようになった。
陰の気を持つ女の半身は男を憎んで喰らい、陽の気を持つ男の半身は女を憎んで喰らう。
――僅かにしか史料の残らないこの恐ろしい妖怪は、短い期間にのみ現れ、その後は一切現れなくなったとされている。
その理由は、何度目かに現れた際、陰陽怪々が人間であった際の実の母が陰陽怪々の前に立ち、泣いて詫びたから。
陰陽怪々は激しく叫び、そして涙を流し、実の母を喰ったと伝わる。更にその直後朝日が昇り、陰陽怪々を照らしたのだとか。
陰陽の妖怪は、自らを産みおとした陰である母をとりこみ、世界が夜(陰)から朝(陽)へ切り替わることで、自らの身体とは別の「完全な陰陽」と交わり消え去った。
完全なバランスなど存在しない。また、完全なバランスなど存在しない方がいい。
揺れ動きつつもなんとかバランスを取っている状態こそが普通であり、そうあることが自然なのだ。
妖怪「陰陽怪々」は、そんな人間のジレンマや、理想と現実の在り方を「陰陽」を通して教えてくれたのかも知れない。