なんかもう色々疲れたので『月百姿』より「月の四の緒 蝉丸」
『月百姿』より「月の四の緒 蝉丸」
これやこの 行くも帰るも分かれては 知るも知らぬも逢坂の関
――の百人一首でも有名な蝉丸は平安時代の歌人。
盲目であったと言われるが、琵琶の演奏が凄く上手かったらしい。
疲れたり憑かれた時には、じたばたせずにアコギでも弾きながら月を見上げる――なんていうリラックスした時間が最高に効く。まぁ僕のアパートでは床ドン来るんだけれど。
さて、この蝉丸という人物は『今昔物語集』に出てくる源博雅との逸話が特に有名。
雅楽に精通していた博雅は、秘曲である「流泉」と「啄木」を弾くと言われる逢坂の関に棲む「蝉丸」が気になってしょうがなかった。
一度でいいからその演奏を聞きたい、と三年間もこっそり見つからぬよう蝉丸の家に通い、今宵こそ、今宵こそ、と毎日待ち続けたのだという。
三年経った八月のこと。蝉丸はいきなり独り言を言い始めた。
「あ~、いい夜だなぁ。私以外に琵琶好きな数寄者がここにいれば、一緒に色々語れるのに……」
それを聞いた博雅は思わず茂みから飛び出し、
「ここにいまぁぁす!」
と言い、その晩に蝉丸は秘曲を弾いて聞かせてくれたのだという。
この辺りの話を詳しく知りたければ、陰陽師ブームの火付け役となった夢枕獏の『陰陽師』に、安倍晴明の友人として博雅が、さらにちょいちょいオイシイ役どころで蝉丸が出てくるので読んでみて欲しい。
――芳年の絵の画題である「月の四の緒」は、「四の緒(四つの緒)」が四つの弦で構成されている楽器、すなわち琵琶を指しており、「月の琵琶」というほどの意味だと思う。
では最後に、ちょっと疲れてちょっと悲観的になってる僕にピッタリな蝉丸の歌を載せてお別れしたいと思う。
世の中は とてもかくても同じこと 宮もわら屋も はてしなければ
(世の中、どこで暮らそうが一緒じゃね? 宮殿だろうがボロ屋だろうがどうせ朽ちてなくなるんだぜ?)
だから今宵も、ボロアパートから月を見上げる。