節婦の霊滝に掛る図
『新形三十六怪撰』より「節婦の霊滝に掛る図」
この絵は有名な浄瑠璃の「箱根霊験躄仇討(はこねれいげんいざりのあだうち)」のクライマックスを描いたもの。
ざっとあらすじ書きます。
あるところに、勝五郎という父親を殺された不幸な男がいた。勝五郎はなんとか仇を探そうと、後に出会った若い妻、初花と共に頑張る。
しかしさらなる不幸が! なんと勝五郎は足が不自由な「いざり」になってしまったのだ。
それでも仇を探すのを諦めない勝五郎に従い、初花もいざり車を押して箱根まで仇探しにやってくる。
そこでついに仇と出会うが、なんと初花が殺されてしまう。
しかし奇跡が起こった。殺された初花は亡霊となり、滝に打たれて勝五郎の仇討成功を祈ったのだ(それが↑の図)。
その甲斐あって勝五郎の足は奇跡の復活! さらに仇を殺す事にも成功し、めでたしめでたし。
※因みに、この物語には複数の人物が登場するが、中でも勝五郎の忠実な下部であった筆助という人物は特に書いておきたい。
この筆助は、初花が返り討ちに遭ってしまうその時、自分も勝五郎様の為、と果敢に戦った男なのである。
言ってしまえば脇役なのだが、芳年は『新形三十六怪撰』で初花を描く遥か前に、和漢百物語にてあえて筆助を描いているので紹介しておく。
『和漢百物語』より「下部筆助」
とにかく、亡霊になってまで夫を想い祈る初花のなんと美しいことか。筆助と初花という、本当に心の真っ直ぐな二人に支えられた勝五郎の物語。きっとこれがずっと親しまれてきたのは筆助と初花のお蔭と言っても過言ではないと思う。
水も滝も滴るいい女!