槍毛長(やりけちょう)、虎隠良(こいんりょう)、禅釜尚(ぜんふしょう)
『百器徒然袋』より「槍毛長、虎隠良、禅釜尚」
禅釜尚 茶は閑寂を事とするものから、陰気ありてかかる怪異もありぬべし文福茶釜のためしもや
槍毛長 日本無双の剛の者の手にふれたりし毛槍にや
怪しみを見てあやしまず
まづ先がけやの手がらをあらわす
虎隠良 たけき獣の革にて製したるきんちゃくゆえにや、そのときこと千里をはしるがごとし
画図百鬼夜行シリーズの中でも名前付きの三妖怪が同時に描かれているのはこれだけである。
石燕も親切に別々に解説を書いているので、それぞれ見てみる。
まずは一番右で木槌のような物を振りかざしているのが、槍毛長。
「日本無双の剛の者の手にふれたりし毛槍にや。怪しみを見てあやしまず。まづ先がけやの手がらをあらわす」
日本で無双の剛の者に触れた、毛槍のようだ。触れただけかよ。
尚、左下の妖怪が槍のような物を持っているので、それが槍毛長かと間違いやすいかも知れないが、木槌のヤツなので御気を付けて。
毛槍とは大名行列などで先頭の者が持ったりしている、フサフサの付いた長い棒の事で、そういった役割があることから、石燕も「まづ先がけの手柄を表す」と書いたのかも知れない。
なぜ木槌を持っているのかは謎だが、とにかく先頭を突っ走るのはこの槍毛長に任せておけば良さそうだ。
次に、槍だかクマデだかを持っている、顔がどこなのかよくわからない猿っぽい見てくれの虎隠良。
「たけき獣の革にて製したるきんちゃくゆえにや、そのときこと千里をはしるがごとし」
つえぇ獣の革で作ったから、戦いでもなんでも、千里を走るがごとくスゲェんだぜ!
的な意味だろうか?
虎隠良とは書くが、印籠の妖怪なようで、どうやら虎の革で作った印籠という意味のようである。道理で毛むくじゃらで頭にはヒモみたいなの付いてて爪みたいな武器を持っているわけだ。でも印籠が戦うという発想がどこから?
最期は栗みたいな頭の禅釜尚。
「茶は閑寂を事とするものから、陰気ありてかかる怪異もありぬべし。文福茶釜のためしもや」
茶はひっそりとした落ち着いた雰囲気を事とするから、陰気が集まりやすくって、こういう怪異も起きるよな。文福茶釜だってそうでしょ――という事か。
釜は湯を沸かすだけでなく、吉凶を占う道具として使われることもあり、妖怪となる要素は結構ありそう。
しかし石燕の描いたこの禅釜尚は随分と勢いのありそうな、また攻撃的にも見える妖怪となっているのが意外である。
因みに、これら三妖怪、どれも名前が強引な当て字、或いは言葉遊びになっているので、元ネタ探し(というか推測)したらもっと面白いかも。
そしてもし、夜道でコイツラに出会ってしまったのなら……
いや、カオス過ぎてどうすりゃいいのか解んねぇよ――なんて夢の中でおもひぬ。