すれ違う二人~遺念火(いんねんび)~
遺念火
夫婦はとても仲が良かった。
妻は夫の為に夜遅くまで働き、夫も妻の為にと懸命に働いた。
しかし二人の愛は互いに強すぎた。
夫はそのうち帰りの遅い妻を「浮気をしているのでは?」と疑うようになった。
やがて夫のその妄執は大きくなり、ある日夫は妻を道で待ち構え、浮気の原因を突き止めようと襲い掛かった。
妻は夫の為、このような所で暴漢に襲われてなるものか、と、自らのかんざしを暴漢の咽に突きたてた。
急いで家に帰り、愛する夫に泣き付こうとした妻だったが、夫の姿が無いことに気付いた。
まさか、と思いさっきの襲われた場所へ行ってみると、そこには変装した夫の咽にかんざしが突き刺さり、死んでいるのを発見してしまった。
妻は大いに嘆き悲しみ、あまりの悲しみ故に自殺してしまった。
それ以来、その場所には二つの鬼火――遺念火――が現れるようになったのだという。
遺念火は、沖縄県に伝わる怪火である。
常に二つの火として現れるといい、その原因の多くは男女の悲しい結末が齎したものだという。
生前にすれ違った二人が、死をもって初めて解り合い、鬼火となって語り合う。
なんともロマンチックで、悲しい妖怪だと思う。
それほど愛し合っていたのに、死後に解り合うというのは皮肉というかなんというか……だからすれ違いとか勘違いというのは怖いと思う。