すまし顔でうそ峠
うそ峠(うそとうげ)
「ここではね、その昔血だらけの手首が落ちてきたんだそうだ」
熊本県は天草市に、うそ峠と呼ばれる場所がある。
そこでは、↑のようにうそをつくと、
「今もだよぅ」
と声がして、血まみれの手首が転がり落ちてきたのだという。
ん? こんな話どこかで……。
また、熊本県は宇城市では、同じような怪異が「いまにも坂」と呼ばれている。
これもまた同じような話で、
「ここでは昔、大入道が出たそうだよ」
とうそをつくと、
「今にもぉ」
と声がして大入道が現れたのだと言う。
熊本県の……天草の……今もいる……。
そう、妖怪の中でも比較的知名度の高い油すまし、あいつもここの出身である。
油すましの怪異も、上に紹介した二つの怪異と凄く似ている。
どう考えても関係がある……というか多分同じ怪異なのだろう。
そもそも油すましだって実体のない「今でもいるよ」系妖怪だったのを、水木御大がキャラクターとしたお蔭で一気に他のいるよ系を追い越して出世しちゃっただけで、運が無ければ同じようによくわかんねぇ妖怪だったはずなのだ。
妖怪が大成するには、人間同様に「運」が結局一番必要なのかも知れない。
ところで、油すましだけはなぜか上記の妖怪と違って「峠」とか「坂」と名前に付いていない。が、油すましは「草積峠というところで――」という伝承があるので、やはり元を正せば峠というのは共通するようだ。
更に勘繰れば、多分どれか一つが大元になっているのではないかと思う。
峠で起きた声の怪異。
正体は一体なんなのだろうか?
いつか余裕がある時にでも、熊本県の峠へ行って、「流石にこの平成の世にはいないよなぁ」と呟いてみたい。
「今もいるよ」
と聞けた折にはしっかりとセオリー通り「ひゃあ出た!」と叫んで逃げ出しますので、いるよ系妖怪の皆さんその際にはどうかよろしくお願いします。