アマテラスを取り戻せ!
前回までのあらすじ
イザナギより産まれ出でた三貴士の内、最も暴力的だったスサノオがついにアマテラス姉さんと喧嘩。ウケヒ対決の後焼けくそ勝利宣言をしたスサノオは、寛大なアマテラ姉さんが何も言わないのをいいことにやりたい放題。しかし大事な機織女まで殺されてしまった姉さんは、ついにキレて天岩戸に引き籠った。
「てめぇスサノオゴラ調子に乗ってっと引き籠ンぞ!」
そして岩屋戸の警備員へと転職したアマテラス。世界は光を失った。
光の絶えた世界で、神々たちのアマテラス奪還作戦が発動する。
日本神話と妖怪特集その6
天岩戸~光をこの手に~
というわけで第六回です。まだやんの? とか言わないで。この企画を積んだら多分僕は天津神におしおきされちゃうのです。
――さて。天岩戸のアマテラスの件は非常に有名で誰もがなんとなぁく知っているとは思うのですが、ちゃんと読むと結構深いのです。まぁそれは全体に言えることなんでしょうが。
とにかく、前回スサノオの荒(すさ)っぷりでアマテラス姐さんはいやになっちゃいまして、天岩戸(あまのいわと・あめのいわと)に隠れちゃいました。
太陽神が隠れちゃうというのは凄くマズイことです。謂わば世界の死でもありましょうか。
神話上でも、アマテラ隠れにより、様々な災いが世界に起こったと記されています。
スサノオを様々な自然の破壊的パワーの象徴と見た場合、やはりこの部分は火山の噴火でしょうか。黒い烟と灰が世界を覆い、太陽も見えなくなる。それにより至る所で被害が出て――と考えると割としっくり来ます。
また、この天岩戸の神話は農業的信仰とも関わりが深いようです。
例えば天皇家の行事である鎮魂祭は、かつては冬至の頃に行われていました。
天皇はアマテラスの子孫ですから、岩戸隠れをなぞって太陽光の最も弱くなる冬至に魂の再生を祭ったわけですね。
日食とも関係していると言われますが、真相は岩戸の中。
で。
八百万の神達は、アマテラスを奪還すべく天安の河原(あまのやすのかわら)にて集まり、会議を開きます。
その会議の中心、神々達のブレインとなるのが思金神(オモヒカネノカミ)です。
古事記の表記だと「金のことばっかり考えてる神様」と思いがちですが、書紀では「思兼」となっており、つまりこの神様は「なんでも知ってる識者」な神様なのです。
因みにオモヒカネさんは、日本神話の一番最初に現れた造化の三神の内の一柱、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)の子です。
で、このオモヒカネの発案を元に、神々達は結託して準備していきます。
順に見て行きましょう。(退屈注意)
・常世の鶏を集めてきて鳴かせた。
・天安の河原の川上の堅石を取ってきた。
・鉱山の鉄を採掘してきた。
・鍛冶屋の天津麻羅(あまつまら)を探して来た
※謎多き神。神、とか命、と付いていないし、具体的に何をしたのか書かれていないのです。しかし鍛冶屋ですし、この後出てくる祭具等を作る為の鉄を加工したんじゃないでしょうか。他にも、三種の神器の剣を作ったんじゃないか、という説もあります。確かにこの岩戸隠れの神話で、剣作りだけが欠けているので充分有り得ると思います。あと男根説もありますがそれはブラフな模様。
天目一箇神(あめのまひとつのかみ)と同一視されることもあるのですが、それは『古語拾遺』にてこの役目をアマノマヒトツがやっているから。そうならばマラさんもダイダラボッチや一目連と関係してくることになる。
・伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)に命じて鏡を作らせた。
※八咫鏡を作ったとされる、鏡作りの祖神。八咫鏡は三種の神器の一つですし、凄く重要な神様です。
・玉祖命(たまのおやのみこと)に命じて勾玉を作らせた。
※これもまた三種の神器の一つである八尺の勾玉を作ったとされる神様。
・天児屋命(あめのこやねのみこと)と布刀玉命(ふとだまのみこと)を呼び、男鹿の肩の骨と波波迦の木で占いをさせた。
※アメノコヤネさんとフトダマさんは共に祭祀や祭具の祖神。特にコヤネはこの後祝詞詠んだりするので重要。祝詞の祖でもあります。
・天の香山(あめのかぐやま)から榊(さかき)を根っこごとぶち抜いて来て、上の方の枝には勾玉を、中ほどの枝には八咫鏡を、下の方の枝には木綿と麻とを垂らし、それらを布刀玉命が御幣として取り持った。
※御幣の始まりであります。
・天児屋命が祝詞を奏上。
・天手力男神(あめのたぢからおのかみ)が岩屋戸の脇に隠れてステンバーイ。
※字からして完全なるパワータイプ。不動明王や山岳信仰とも縁あるザンギエフ。
・お待たせしました天宇受賣命(あめのうずめのみこと)が遂に登場。
空っぽの桶の上に立ち、トランス状態で足を踏み鳴らし、次第に大きな(願望)おっぱいが顕になり、裳(も)の紐を陰部まで押し下げて踊り狂いました。
※アメノウズメは芸能の始祖とも言われています。また、石燕の鈴彦姫もアメノウズメを引いています。
どのような光景かといいますと、冒頭の画像もそうですし、またはこんな感じです↓
こちらは春斎年昌(しゅんさいとしまさ)の天岩戸。
おいウズメさんが裸じゃないのはどういうことか!
話を戻します。
アメノウズメの狂乱舞に、八百万の神達は大喜びの大爆笑。
そんな外の様子が気になって仕方なくなった可愛いアマテラス姐さんは、岩戸をちょっとだけ開けてこっそり聞きます。
「ねぇ、すごい楽しそうだけど、何があったの?」
ウズメが答えます。
「実はですね、貴女より貴い神様が現れちゃったんです。それでみんな大喜び。ほら、この鏡を見て下さいな」
鏡に映ったのはアマテラス自身。そこでもお茶目なアマテラス姐さんは、それが自分だとか気付かずさらによく見ようと身を乗り出します。
その時待ち構えていたザンギエフことタヂカラヲノカミが、アマテラスをぐいと岩戸から引っ張り出し、すかさずフトダマさんが注連縄を張り「もう入っちゃダメー」と岩戸を封じます。
引っ張り出されたアマテラスがその時どう思ったのか、その記述はありません。
しかしとにかく太陽神が出てきたことで世界は光を取り戻したのです。
――この岩戸隠れの神話は、祭祀様式の誕生やら太陽の死やらと深いテーマを含む反面、なんだかドタバタコメディな展開で描かれているのが面白いところ。
祟りを恐れず素直に言えば、ここでのアマテラスはちょっとマヌケなのです。
真面目に受け取れば、パワータイプのタヂカラヲに引っ張り出されたアマテラスというのは、まるで人の手により強引に太陽が復活したかのようでもあります。
まさか太陽をコントロールできると思っていたなんてことは……。
深読みするとキリの無い日本神話であります。
さて、無事にアマテラスが戻ったので、次に八百万の神ゝはスサノオの処遇を決めねばなりません。
相談の結果、スサノオは多くの物を献上させられた上、髭を切られ、爪も抜かれて高天原を追放されたのです。
髭や爪など、自然に伸びて行く部位というのは不浄なものとされていました。ある意味、ここでスサノオは浄化され、生まれ変わったわけです。
そして物語は地上の、ヤマタノオロチへと繋がって行くのです――。
つづく