女子高生の恋バナにおっさんな僕は素直にときめいたので『月百姿』より「田毎ある中にもつらき辻君のかほさらしなや園の月かげ 一とせ」
『月百姿』より「田毎ある中にもつらき辻君のかほさらしなや園の月かげ 一とせ」
ウソッ!? マジ⁉ えぇぇぇ超かっこいいじゃぁぁん。ていうかなんで一か月しか付き合わなかったわけ? もったいなくない?
……はぁ。
お店のバイトの子が、友達数人を連れて来店し、↑のような会話をしていて、その楽しそうな様を見ていると僕が年齢を重ねて失い、また失いつつあるモノが言葉には出来ないが少し解った気がした。
――そんなわけで、今宵の『月百姿』の一枚は、若き女子高生達に過酷な現実を突きつける、天下無双、泣く子も妖怪も黙る「ミス・淫ら」な「田毎ある中にもつらき辻君のかほさらしなや園の月かげ 一とせ」である。
この絵のモデルになった女性は、「一年(ひととせ)おしゅん」という異名を持つ伝説的な夜鷹。
夜鷹とは、夜に男性を呼び止め、「ちょっちょっ」と物陰に誘い、手に持った↑ムシロを敷いてアレコレする、所謂娼婦である。
因みに夜鷹という呼称は江戸のみである(京都では辻君と呼んだ)。
このおしゅんさんが一体どんな伝説を持つかというと、大晦日の夜、一晩で360人もの男性とアレコレした――という伝説。
上に書いたように、飯盛り女や遊郭で遊ぶのとは違い、物陰でムシロを敷くだけでやることをやってしまうので、確かに時間は短く済むかもしれないがいくらなんでも360人は妖しい。野暮な計算をしてみれば、仮に一晩が夜の6時から朝の6時ぐらいまでの12時間だとしても、一人2分で済ますことになる。
……お、おう。
で、この夜鷹というのは、当時でも、今と比べても、その手の行為をする商売としては破格の安さ。今でいうなら千円もいかないぐらいであろうか。
なぜそんなに安いのかは、そのお粗末なプレイ環境もあるだろうし、主に夜、顔なんかわかりゃしないような所でスル為、あまりお顔の美しくない女性や、あまり御歳が若くない女性も多く、また性病のリスクも高かった為、というのもあるのかも知れない。
――さて、そんな夜鷹代表みたいな女性であるおしゅんは、画題にもなっているような歌を詠んだ。
田毎ある中にもつらき辻君のかほさらしなや園の月かげ
意味は、
田んぼを照らす光みたいに、ワケアリ娼婦達の顔を照らすんじゃないよ、お月さん
という感じ。
ただ浮ついている、とかではなく、彼女達は本当に生活が苦しくて、それを凌ぐために身を売っていた。
そのことを一番身に染みて知っていたのはきっと一年おしゅんなんだろうし、彼女はきっと、そんな夜鷹のみんなの味方だったのだろう。
芳年の描いた絵には、苦労など全く感じさせない飄々とした女性が描かれている。
それは男のエゴ故なのか、それともそういう女性だったのか。
伝説になるほどの夜鷹の女性の本心など、ほんの僅かも知ることなど出来ない気がする。