ささやかな楽しみを糧に 『月百姿』より「たのしみは夕顔たなのゆう涼 男はててら女はふたのして」
『月百姿』より「たのしみは夕顔たなのゆう涼 男はててら女はふたのして」
どんなに平凡でつまらぬ毎日でも、何か一つ楽しみなことがあるだけで随分と幸せな気分になれるものである。
僕なんかはやっぱり帰宅して一息ついて、風呂場に妖怪が沸いてやしねぇかとチェックして落胆して、少し酒を飲みながらブログ回りなどをする時間が一つの楽しみである。
今日紹介する芳年の一枚は、他の『月百姿』の物語性に富んだものとはうって変わって随分と日常的かつ心温まる一枚である。
「たのしみは夕顔たなのゆう涼 男はててら女はふたのして」
という画題の意味は、
「楽しみなのは夕顔棚(夕顔観賞用の設備)の下で夕顔を眺めながらする夕涼み。男は襦袢(ててら)に女は二布(ふたの。女性の腰巻のこと)して」
となる。
要はまぁ、暑い夏の日には、夕顔棚で夫婦で夕涼みするのが楽しみなんだよ、ということであろう。
ここでまた芳年すげぇと思うのが、あえて正面ではなく後ろから二人を描いていること。だというのに男のすこしだらしない感じ、女の頼もしく愛に溢れた感じがとてもよく伝わってくる。
明日がどんなに嫌でも、このようにささやかな楽しみを見つけて心と体を癒すことの出来る人間っていうのは、弱い生き物なのか強い生き物なのかちょっともうよくわからない。