いやそれ普通の――倉婆
倉婆(くらばばあ)
ばばあ妖怪というのが物凄い数存在しているのは知っていると思う。
この倉婆、名前から察することが容易ではあるがとにかく倉に現れるとされるばばあ――いや、妖怪である。
倉婆は宮崎県に伝わっており、三度笠を被り、杖をついた姿で現れるのだという。
それ以外の詳細がちょっと解らなかったのだが、とにかく三度笠、杖、という恰好のばばあであるらしい。
いやそれ普通のばばあ。
どういうわけかババアというのは存在するだけで妖怪視されてしまうらしく、この倉婆に関しても「婆姿で現れる妖怪」とされているのだが、こりゃもうほんとにヒドイ話である。
一方、同じ倉でも子供ならば随分と扱いが良くなる。
以前紹介した「倉ぼっこ」なる妖怪がいるが、こいつは座敷童的な扱いで神聖さも高くなっている。それがババアになっただけで雑な扱いになる。なぜなのか。
ババアに限らずジジイだって妖怪にされてしまった時代。ちょっと人気のないところで徘徊しようものならすぐに「妖怪が出た」と言われてしまう。
今日の日本では高齢化社会がフルブーストで加速しているようで、すぐに超妖怪大国にあるであろうことは間違いない。というかもうなっているのかも知れない。
事実、平日の休日にフラっとバスにでも乗ろうものならそこはもうジジイババアの巣窟、魑魅魍魎も逃げ出す爺婆妖怪天国。
入れ歯飛ばし、マスク激ズレ、真ん中仁王立ち――などなど、新妖怪図鑑を作成するのなら外せない高齢妖怪に満ちている。
ところで、マスク激ズレのジジババを一度は見かけたことがあるんじゃないかと思うが、アレは一体何から何を守っているのだろうか?
よく見るのが、鼻だけマスクで覆って口が丸出しなパターン。
まぁ季節的にも鼻をとにかく守りたい気持ちは解らなくもない。同時に守ればいい、と思うけれど、呼吸系の苦しさとかジジババ故の何らかの事情もあるのかも知れない。
しかし、鼻と口の真ん中だけを守るというのはどういうことか。
一度しか見たことが無いが、マスクをわざわざ尖らせて、丁度真ん中口の鼻の間だけをガードしている猛者を見たことがある。
まさか――鼻の下のツボ、人中を守っているとでも?
遠目に見るとまるでクチバシのように見えるので、なるほどこれももしかしたら河童起源の一つか――なんて思えなくもないけれど。
どれだけ考えてもやっぱりわからないので、昔の人に倣って「ジジババの姿をした妖怪」としておこうか。