【ティッシュ】鼻水の止まらぬ寒さですので、はなたれ小僧様【ティッシュ】
はなたれ小僧様
全身の穴という穴が緩い僕は、もちろん鼻水だってよく出る。
これだけ寒いと、へへへ、と笑っただけでも鼻水が垂れたりする。いやほんとに。
僕はティッシュを愛している。
で。
鼻水を啜りながら柳田國男の『日本の昔話』という本を読んでいたら、「はなたれ小僧様」という昔話があったので気になって読んでみた。すごくざっくりまとめると――
肥後の国にある爺さんが住んでいた。薪を売ることを生業としていたのだが、ある日薪がまったく売れなくなった。
そこである川の橋の上から薪を投げ入れ、竜神様にお祈りして帰路についた。
すると、突然川の中からめっちゃ美人な若い女の人が出てきて、ジジイを呼び止めた。
見ると、女の腕には小さな子供が抱かれている。
「お爺さん。あなたは正直者でいつも真面目に働いて、竜神様も大変感激しておられる。そこで、この子供をあなたに預けます。この子ははなたれ小僧様と言って、毎日三度、エビのナマスを供えれば、なんでも願いを叶えてくれます」
えうそマジそれ超ラッキーじゃん! と思ったかどうか知らないが、とにかく爺さんは喜んで帰ると、神棚にはなたれ小僧様を置き、お願いしてみた。
すると、鼻をふうん、とかむような音をさせて(ティッシュなしに鼻をかむとかちょっと僕には理解できない)、爺さんの欲しい物をなんでも出してくれた。
爺さんは瞬く間に大金持ちになった。することと言えば、毎日欠かさずエビを買いにいくのみ。
しかしある日、爺さんはそれすらも面倒になってしまった。それにもう十分過ぎる程色々な願いを叶えて貰っている。
「はなたれ小僧様。わしゃもう満足じゃ。ありがとう。どうか龍宮へ帰っておくれ」
はなたれ小僧様はそれを聞くと黙ってすぐに出て行った。
外で鼻を啜るような音が聞こえていたが、なんとその音がする度に爺さんの家の中の物が消えて行く。
気付けばすぐに元のあばら家のみに戻ってしまっていた。
「こりゃいかん! はなたれ小僧様あっしが悪ぅござんした。どうか戻って来ておくれやす」
爺さんは必死ではなたれ小僧様を追いかけたが、もう二度と見つけることはできなかった。
――というお話。
典型的なパターンの一つ……と思いきや、ちょっとだけズレてるのが面白い。
普通、願いを叶えて貰った爺さんが、欲を出し過ぎておじゃん、となる。
しかしこのはなたれ小僧様の話では、爺さんはもう欲すらも湧かぬ程に願いを叶えてもらってしまって、最後に「もういいよ」と言っちゃったからおじゃん、となっている。
まぁしかしそこは上手く出来ていて、「もういいよ」と言ってしまったのもお供えを買いに行くのが面倒になったからなので、これもまた欲なのだろう。
同じなわけである。
と、この昔話は色々な怪異譚が混ぜこぜになっている(というか昔話というのはそういうものだけど)。
女が川から出てきて子供を預ける――というのはウブメ。
また、女が龍神に仕えている、というのもどことなく牛鬼とウブメの関係を想起させる。
更にもちろん龍神が出てきているから、水神、また蛇系妖怪の特徴も持っていることになる。
いっそ爺さんが投げた薪がそのまま女に変化したなら河童も絡んで面白かったのに。
昔話というのは伝説と違ってなんでもあり、かつ教訓たっぷりな所が面白いと最近思うようになった。
大事なのは爺さんや女やはなたれ小僧様の正体ではなく、それらの演者が演じる全体なのである。そこに昔話の真意がある。
――って妖怪バカの人が言ってた。
話は変わるが、僕はとにかくティッシュが好きである。
部屋には「居座りポイント」毎にティッシュを置いている。これが一つでも無くなると落ち着かない。
職場でも絶対にティッシュは切らさない。
しかし僕はティッシュの中身が好きなわけじゃない。
最近、ドラッグストアなどで「箱の無いティッシュ」を見かけるが、確かにかさばらないしゴミも小さくできるし良いと思う。
だが。
あの箱あってのティッシュなのだ。
物凄い速さで投げて角が丁度当たっちゃうと予想以上に痛いあの箱。
雑に置いた時の「コトン」という音。
カラフルな色。
潰したときの往生際の悪さ。
スーパーで何かを買って帰る時、間違いなく一番ワクワクしながら帰れるのはティッシュを買った時である。
デカくて、邪魔で、バイクだと危なくて。
でもそれがいい。
箱と、薄くて柔らかい中身、そのどちらも大切である。どちらかが欠ければそれはティッシュではない。神や仏やエリエールやスコッティやネピアがティッシュだと言い張った所で、僕はティッシュと認めない。
松尾芭蕉が、「ティッシュ 嗚呼ティッシュ Yeahティッシュ」と詠んだ気持ちが本当に解る。
そう。
はなたれ小僧様でも、昔話でも、妖怪でもない。
この記事の全体を見ればわかるだろう。
これは、ティッシュを褒め称える記事に他ならないのである。