鬼一口(おにひとくち)
『今昔百鬼拾遺』より「鬼一口」
在原業平二条の后をぬすみいでゝ、あばら屋にやどれるに、鬼一口にくひけるよし、いせ物がたりに見えたり
しら玉か何ぞと人のとひし時露とこたへてきえなましものを
鬼一口は、妖怪というよりは鬼が人間を食べる様を現した言葉である。
石燕は解説文にて、伊勢物語にある説話を引用している。
その伊勢物語の説話は、
在原業平という男が、恋い焦がれた二条の后を攫って逃げ、あばら屋の洞窟に閉じ込めてしまうのだが、翌朝見てみると后の姿は無く、洞窟に住んでいた鬼によって一口で食べられてしまったのだーーというもの。
鬼によって一口で食べられてしまう人間の話は各地に伝わっており、それらは神隠しなどと同様、行方が突然わからなくなった人間を無理矢理に理由付けするために生まれた話だと思われる。
突然に消えてしまったから、ただ鬼に攫われたというのではなく、「鬼一口に食われた」と言ったのだろう。