因幡の白兎~飛んだイナバのワニワニパニック~
日本神話と妖怪特集その7
因幡の白兎
おっとヤマタノオロチが飛んでるぜ? と思った方、ありがとうございます。しかし過去にヤマタノオロチは紹介しちゃっており、その時もニワカながら頑張って日本神話に挑んだ僕の面影を見ることができましたので、ヤマタノオロチはその記事に任せてウサギさんに話を飛ばしたいと思います。
つってもわざわざヤマタノオロチ記事読んできてくださいなんてヨコシマで傲慢な事はしたくないので物凄く短くヤマタノオロチ退治をまとめときます。
・天岩戸の後追放されたスサノオは、出雲で生贄になりかけてたクシナダヒメと出会い、助けることに。
・なんやかんやあって酒飲ませてヤマタノオロチを退治してオロチから出てきた剣は三種の神器の一つ。
・その後須賀の地で「八雲立つ――」なんたらという素敵な歌を詠み、クシナダと結婚して一杯子供産ませる。
・その一杯産んだ子供の、六世の孫が大国主神(おおくにぬしのかみ。国譲りまで葦原の中つ国の首長であり続ける神。大事)
――さてでは因幡の白兎。
前述のように大国主神には多くの兄弟神がいました。けれどもそれらの神様は、身を引いて大国主神に国を譲りました。
その理由というのが、因幡の白兎神話ということになります。
その大勢の兄弟神達は、皆因幡の八上比売(やがみひめ)に求婚をしようと思っており、皆で因幡へと出向いた際に大穴牟遅神(おほむなじのかみ。大国主の別名。大国主はたくさんの別名を持っているので混乱注意です)を荷物持たせのお供として連れていきました。
一行が気多(けた。かつて鳥取県に存在した気多郡のこと。今は無い)の岬に至った際、素っ裸の兎が横たわっていました。
すると大勢の神々がその兎に、
「おぉ兎よ、ずいぶんなケガじゃないか。治すにはだな、とびっきりしょっぱい海水で体を洗って、それから風のよく吹く所で乾かすんだ。いいな? ちゃんとやれよ? フヒヒ」
と言いました。兎は神々の言う通りにしたのですが、海水が乾くにつれて皮膚が傷だらけになり、痛み苦しむ羽目になりました。
最後にそこを通ったのが大穴牟遅神。大穴牟遅神はその兎を見て、
「おぉこりゃとんだイナバのアカウサギ! どうしたの?」
と兎にたずねました。兎は、
「私は隠岐の島におりまして、この土地に渡ろうとしたのですが、渡る手段がありませんでした。そこで海の和邇(わに。鮫のこと? など膨大な議論がなされている。マジなワニなんじゃないか論もあったりして興味深いところ。一般的には鮫)を騙して、僕と君たちとで競い合って、どちらの種族が数が多いか数え合おう、と言ったんです。まずは君たち和邇ができる限りの仲間を集めて、あっちの気多の岬までずっと並んで欲しい。そうしたら僕が君たちを踏んで数えていくから、そうやってどちらが多いかを競い合おう――と。そうして集めてもらった和邇達の上を僕は軽快に踏み渡っていったのです。
もう少しで渡り終えるというその時、つい僕は楽しくなっちゃいまして、和邇達にこう言ったのです。お前たちは騙されたんだよざまぁみろ! と。すると端にいた和邇が怒り狂って僕に噛みつき、衣服と皮を剥いだのです。
そんなわけで泣き悲しんでいるところへ、大勢の神々がいらっしゃり、海水で体を洗い風通しの良い場所で寝ていろと教えてくれたのです。その通りにしたのですが、私の体はこのように傷だらけになり、苦しい痛みが体中を這い回り、泣いていたのです」
と、言いました。それを聞いた大穴牟遅神は、
「あぁそりゃ騙されたねぇ。すぐに身体を真水で洗って、蒲黄(蒲の花の上の黄粉。薬として用いられた)を取ってきて敷き散らかして、その上をゴロゴロと転がればウサギさんの皮膚はすぐに元通りになると思うよ」
と教えてあげました。
兎はさっそく教えられた通りにすると、すぐに傷は癒えました。
――これが、因幡の白兎。今に至るまで兎神と言われています。
最後に兎は、大穴牟遅神にこう言いました。
「あの大勢のクソ神様どもは、絶対に八上比売を得られはしませんよ。袋を持たされ賤しい恰好をしていますが、あなたがきっと得られることでしょう」
その兎の予言通りに、大穴牟遅神は八上比売を娶ることに成功するのです。
因幡の白兎の神話はここまで。
実はウサギが島を渡るべく他の種族の動物を騙す話というのは世界にもあり、特にそれらの場合「洪水で流されてしまい、島に戻るために他種の動物を騙して渡る」となっているものがあります。
それらの逸話のオチに、皮を剥ぎ取られてしまうような記述はないので、大国主神との出会いへの橋渡しとして兎が皮を剥ぎ取られる件が付け足されたか、あるいは大国主と傷治療の起源とを結び付けるべく、兎の島渡りの方こそが他国の伝説を真似て後付された可能性もあります。
あとは和邇。
ワニか鮫か? ということですが、まぁ確かに普通に考えてワニはいませんでしょうし、鮫か、あるいは別の何かだろうと思うのが自然。
が、折口しのぶっちは「そう決めつけちゃうのはダメだと思うよぅ?」と苦言を呈した上であのアリゲーターなワニである可能性もあるとする説を展開。
とにかくなんだかwiki見たってこの和邇への考察だけが本編よりも遥かに長いというワニワニパニックっぷり。
過去に紹介した妖怪にも、影鰐(かげわに)という名のサメ妖怪がいました。地方によっては鰐と書いてサメを指したりするので、そう考えるとここでの和邇もサメなんじゃないかと思いたくなるのですが。
さて段々と舞台が地上に移ってきており、天孫降臨も近くなってきました。
有名ないくつかの逸話のみ知っている――という方がほとんどだと思うのですが、全て繋げて考えてみると面白さ倍増です。
とにかく――次回はこの国の主たる大国主神の波瀾万丈な物語をお届けいたします。