付け紐小僧
付け紐小僧(つけひもこぞう)
長野県佐久市の田口の辺りに、昔「小豆とぎ屋敷」と呼ばれる屋敷があった。
当然名前からも解るように小豆洗いが出たとされる屋敷なのだろうが、そこには付け紐小僧という妖怪も出たのだという。
羽織りの紐がところどころ解けてしまっている、七八歳の子供の妖怪で、親切心で「紐を結んであげるよ」と声を掛けるとどういうわけか一晩中色々な所を歩き回らされる羽目になり、夜が明けるまで帰れなくなるのだとか。
それでこの辺りのおっかさん達は、「遅くまで遊んでると付け紐小僧が出るよ!」と言って聞かせたらしい。
さてこの長野県の南佐久郡。山々に囲まれた場所で、とにかく子供が迷子になったり神隠しに遭ったりすることが多かったのではないだろうか。
他にも以前紹介したイジャロコロガシなんていうマニアックな妖怪も南佐久である。
イジャロコロガシも、わざわざ「子供を脅かす」なんていう伝承があるぐらいなので、やはり子供への戒めとし有効活用された妖怪なんじゃないかと思える。
でも付け紐小僧は、別に小僧である必要は無いような気もする。
妖怪に可愛さをプラスする上で小僧系は沢山生まれてきたわけだが、キャラクターにもなっていない妖怪が小僧なのには必ず理由がある。
例えばこれが「付け紐女」だったのなら、着物のいたるところがほどけている美女――とかいう伝承になるだろうし、そうするとエロなニュアンスが濃くなって随分と印象が変わってきてしまう。それはいいとして……。
――まぁ、大して深く考えなくとも、「山に囲まれている場所」というのが大きなヒントになっているのだろう。
山の民――マレビトの存在。
同時に、「小豆とぎ屋敷に出る」という部分から、何らかの音の怪異もあったことが解るし、これもたぶん山がキーワードになってくるのだろう。
妖怪の沸くところには自然があり、そしてその自然の中には必ず人がいる。
突き詰めると大体我が国の暗い部分に行きあたってしまう。綺麗ごとのみでは決して本質が見えてこない。それが妖怪。