小豆洗いの陰から……妖怪「米とぎ婆」
米とぎ婆
長野県や宮城県で伝承が残る米とぎ婆。
浮世絵師などによって描かれた形跡もなく、キャラクター化の夢を逃した妖怪である。
それがなぜかと言えば、どうしても小豆洗いの存在が大きいだろう。
とにかく小豆洗いと性質が似ており、長野県に至っては小豆洗いと米とぎ婆の両方の伝承が残っており、さらに有名な「小豆とごうか人とって食おうかしょきしょき」という歌の米とぎバージョンまである。
基本的には音だけの妖怪なのだが、宮城県では実在の老婆が米とぎをしていたのを見た者が妖怪と思い込んだ、という話もある。失礼な話だ。
例えば『絵本百物語』には小豆洗いがトップに掲載されているのだが、なぜそこで選ばれたのが小豆洗いであって米とぎ婆ではなかったのだろうか?
米とぎ婆の伝承に比べ、小豆洗いの伝承シェアはすごい。全国的に語り継がれているのである。これはおそらく、妖怪か??? と錯覚してしまうような音が、米と言うよりは小豆を研いでいるような音だった、というだけな気がする。
河原を歩く音、砂浜を歩く音、などが、小豆を洗う音、として方がしっくりきたのではないだろうか。
余談だが、最近の米には「手のひらで力強くとぐ」という古くからのとぎ方は適切では無い。僕も婆ちゃん(米とぎ婆じゃない)に教わっていたので、つい最近まで手のひらで強く研いでしまっていた。
それはあくまでも古米や精米技術の低かった時代だからこそ通用した方法なようで、精米がかなりきちんとされている現在の市販の米は優しく掻き回すように研ぐだけでいいらしい。
日本人には無くてはならない白米。恐らく多くの方が毎日研いでいることと思う。
米を研ぐ際、小豆洗いの陰で泣く泣く有名妖怪入りを逃した切ない婆ちゃん妖怪がいることを考えながら米を研げば、きっともっと美味しくて妖しい白米が炊き上がることだろう。