化け銀杏の精
化け銀杏の精(ばけいちょうのせい)
外を歩けば至る所に黄色の葉を茂らせたイチョウの樹が立っている。
秋冬の風物詩として見れば美しいと思えなくもないが、夜に寒々とした風に煽られて靡くイチョウの樹というのはなかなかに不気味であったりもする。
そんなイチョウの樹も、化けて出ぬわけがない。
特にイチョウの樹は寺の樹であるからだとか、神聖な樹であるからだとか、水木先生の妖怪大全によれば根が水分を吸いすぎて家によくないことが起きるだとか、大きく育ちすぎて屋敷の敷地を圧迫し、おびただしい数の葉を散らして困らせるだとかと、何かと不吉な樹とされることが多いようだ。
というか臭い。
僕の恋人は、
「なんでイチョウの樹ってみんなウンコすんだろね。しやすい樹なのかね」
なんて真顔で言っていた。真実は教えないでおくことにしている。
さてじゃあこの化け銀杏の精というのはどういう妖怪か、というと、水木御大が与謝蕪村の『蕪村妖怪絵巻』に描かれている木のばけものの絵を真似て創作したものであるといわれており、その実態はよくわからない。(蕪村の↓)
とりあえず全身が黄色で、墨染めの着物を着て鉦を叩きながら現われるらしい。
イチョウの樹から精霊的なものが出てくるのだとしたら、それはやはり臭いのだろうか?
ちなみにイチョウの樹は雄株と雌株がある珍しい樹木なようで、臭い実を付けるのは雌株の樹だけらしい。
となると、化け銀杏の精も、男っぽかったら無臭で、女っぽかったら臭いのかもしれない。
どうでもいい話だが、僕が学生のころ流行っていたし好きだったGOING STEADY、通称ゴイステというバンドがいる。
このバンドは、なんと僕が気付いた時には銀杏に化けていた。
これもまた化け銀杏の精の成せる業か――なんて夢心地に思ひぬ。