川熊(かわぐま)は熊なのか
川熊
秋田県は雄物川に伝わる、水中に潜む妖怪「川熊」。
――ある日、秋田の殿様が家来を連れて雄物川で猟をしていると、突然川の中から真っ黒な手が現れ、殿様が手に持っていた鉄砲を奪って水中に消えていったのだという。
殿様はすぐに家来達に取り返すよう命じ、苦心の末になんとか鉄砲を奪い返した。
その鉄砲は「川熊の鉄砲」と名付けられ、殿様の家に代々飾られたのだと言う。
水木御大の『図説 妖怪大全』にも載っており、そこには熊ともワニともつかぬ異形の妖怪が描かれている。読みは「川熊(かわぐま)」である。
しかしこの妖怪、特に全身を見られているわけでもなく、ただ真っ黒い手を目撃されただけである。
実は秋田の方では、字が違うが河熊の昔話というのがあり、またその中には河熊と書いて「かっぱ」と読んでいるものもある。
この雄物川の川熊の話も、便所から手だけ出してイタズラをする河童の話と関連しているような気がしなくもない。
つまり、これは熊ではなく河童の話なのではないか、と思う。
というかそもそも誰も「熊のつもりで話したわけではない」んじゃないかとも思える。
河童を、誰も「河の中の童」だとは思わないのと同じように、秋田のその地方では河熊こそをカッパとしていたんじゃないか、と。
そう考えると色々しっくりくるのである。
ただし。
だとしても「熊」と付いているからには必ず理由があるわけで、それはもしかしたらただ手が真っ黒だったことに由来するのかも知れないし、殿様の家に飾られる上で「カッパの鉄砲」だと格好つかないから河熊としたーーまぁそりゃないとは思うがーーのかも知れないし、何かしらはあるはずなのだ。
なんにしろ、絵にした際「すごくよくわからない妖怪」にしてしまったのは、水木先生の力と言うしかないだろうと思う。
言わずもがな、水木先生の妖怪界での影響力は凄まじいのだ。
ゲゲゲッ!