妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

ぬりかべドン

塗壁(ぬりかべ)

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※言わなくてもわかるとは思うが、画像はこんにゃく。

 

なんということでしょう。

今まさに妖怪検定対策の記事を書いていたら、ぬりかべを紹介していないという大変な事に気付いた。

あのぬりかべを未紹介だったとは、青天の霹靂、驚天動地、空から蒟蒻である。

というわけでの塗壁。

 

ぬりかべの本邦最初の記述というのは、柳田國男の『妖怪談義』の「妖怪名彙」だとされている。福岡県遠賀郡に伝わる怪異であるとされ、そこでは塗壁はあくまでも現象であり、姿形のある妖怪だとは書かれていない。

つまり、「ヌリカベという現象がある」わけだ。

それを後年水木先生がコンニャクみたいな壁として描いたことにより、塗壁はぬりかべという大人気キャラクターへと大出世したのである。

これは妖怪現象が妖怪キャラクターへと変わり知名度を上げていった典型的な例。

全国にこのような「前へ進めなくなる系妖怪」というのは数多い。

ここで紹介したものでは、野衾(のぶすま)だとかがソレである。

進めなくなる系は、他にも「足が動かない系」がいる。足まがりとか、すねこすりとか。

しかしそれらとの違いは、やはり「壁のようなものが前に現れて進めなくなる」という点である。

足が重いだけなら、壁が現れるようには見えないだろう。

つまり視覚的に何かが現れる現象なのだ。

これは野衾も同じで、やっぱり視界がやられる。

柳田國男の文を引用してみると――

筑前遠賀郡の海岸でいう。夜路をあるいて居ると急に行く先が壁になり、どこへも行けぬことがある。それを塗り壁といって怖れられて居る。棒を以て下を払うと消えるが、上の方を敲いてもどうもならぬという。壱岐島でヌリボウというのも似たものらしい。夜間路側の山から突出すという。出る場処も定まり色々の言い伝えがある。

とあり、棒で下の方を払えば消える、と書いてある。

下の方を払えば消えるが、上を払っても効果がない。そのような壁――。

さらに、文章後半には、ヌリボウなる妖怪についても書かれている。

どうやらこのヌリボウ、元は「ぬり棒」だったようで、壁ではなく棒。

妖怪伝承においてはごっちゃになって違う地方に伝わっている――ということも多いので、もしかしたらこの柳田國男の記述も、「棒で払う」という辺りがヌリボウとヌリカベがごっちゃになった伝承であるんじゃないかと思えなくもない。

というか、ヌリボウの方が先である可能性もあり、となるとヌリボウという妖怪が伝わっており、似たような怪異をヌリカベと呼ぶようになった――とも考えられる。

もしかしたら元を辿れば、ただのイタズラ足払い棒だったり。

 

――さてぬりかべ。

ヌリボウは置いといて、とにかく壁が目の前に現れどこにも行けなくなる現象というのが伝わっているわけで、それを考えなきゃなるまい。

疲労や空腹、さらには貧血などで、目の前が真っ暗になることは無くはない。

が、そのような時に「目の前に壁が現れた」と表現するだろうか。

もちろん、中にはそのような状況を壁に例える人もいるだろう。

ただここではそうではない可能性を考えたい。

とすると――本当に巨大な動物が突然目の前を塞いだ、とか。

ただ自分が方向感覚を失って壁の方に進んでしまっただけ、とか。

似たような道に入り、さっきはこんな壁なかったのに……と思い込んだだけ、とか。

わからん。

というかそもそも「ぬり」ってなんなのだ。

ぬりぬりと嫌な感触でもしたのだろうか?

それとも明らかに何かで塗ったようだったのだろうか?

 

ヌリ、という言葉が、中国などで特別な意味を持っていないか? と思い調べてみたが、特に発見はなかった。

他に、塗、という漢字について考えてみた。塗る、塗れる(まみれる)、塗装(とそう)。そうか、他に塗という漢字は「と」とも読める。

とかべ。

棒、壁、塗、進めなくなる、巨大、と、とかべ……。

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脳内ぬりかべに阻まれたのでちょっと座る。